現代新書カフェ
2015年12月23日(水) 堀井 憲一郎

サンタクロース「火あぶり」事件〜クリスマスはなぜ恋人たちのものになったのか

キリスト生誕祭と日本人のフシギな関係

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〔photo〕gettyimages

文/堀井憲一郎
(コラムニスト)

火あぶりにされたサンタクロース

フランスのブルゴーニュで、サンタクロースが火あぶりにされたことがある。

ブルゴーニュのディジョン大聖堂で吊され、大聖堂前の広場に引きだされ、そこで火あぶりになった。

生身の人間ではない。クリスマスシーズンになるとお馴染みの、あの、サンタクロースである。

「聖なるキリスト降誕祭を異教化した罪」によるものだ。つまりカトリック教会によって、サンタクロースの存在は異端であると断罪されたのである。

さほど古い話ではない。1951年。日本でいえば昭和26年のことである。

当時の日本の新聞には、そのような外電は掲載されていない。20世紀フランスの偉大なる知性レヴィ=ストロースの論文「火あぶりにされたサンタクロース」によって当時の様子を知ることができる(『サンタクロースの秘密』せりか書房・所収)。

サンタクロースが闊歩するキリスト降誕祭(クリスマス)はカトリック教本来の姿ではない、と教会は強く主張していた。ただ、このややエキセントリックなサンタクロースの処刑はあまり広く歓迎されていたわけではない。すぐさま翌25日の夜にはこの大聖堂前広場にサンタクロースが〝復活〟し、市民に歓迎された、とある。

聖職者たちは、サンタクロースを火刑に処すことによってかえってかれの永続性を強めたのではないか、というのがレヴィ=ストロースの見解である。

 なぜ日本人まで馬鹿騒ぎを?

そのころの日本は、まだアメリカ軍による占領統治の時代であるが、12月24日の夜から歓楽街の〝オールナイト〟での乱痴気騒ぎがこの年も繰り広げられていた。

昭和26年当時、大晦日と同じく、クリスマスイブは終電時間が遅くなる(ないしはオールナイトで運行している)と勘違いした客が新橋、有楽町、新宿駅で多数取り残された、という新聞記事が出ている。

また、関東エリアでの初の民放ラジオ局〝ラジオ東京〟が、この12月24日に開局した。当時、クリスマスイブには多くの日本人がラジオを聞く、という習慣があった。

「こんなたのしいラジオは始めて!」(原文のママ)「豪華な提供番組いよいよ本日開局ラジオ東京 JOKR」という広告が12月24日に新聞に載っている。その文字はサンタクロースの担げる白い袋に書かれている。ちょうどフランスで火刑に処されているサンタクロースの袋である。

「ラジオ東京では聴取料はいただきません」とも明記してある。いかにも楽しげなクリスマスの夕べである。ラジオ東京はいまのTBSラジオである。TBSという存在は、クリスマスを楽しみにしている人たちに向けてそのすべてを開始したのだ。

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