デジタル・エディターズ・ノート
2015年10月28日(水) 佐藤 慶一

「モノを買わない」先進都市から読み解く、「資本主義の先」の世界の行方

編集者・菅付雅信さんが語る『物欲なき世界』

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編集者の菅付雅信さん

欲しいモノが特別ない世界。シェアという考えが浸透しつつある世界――。はたして、これは消費の飽和なのか、一時的な物欲の減退なのか。欲しいモノがない世界では、どんなことを豊かで、幸せだと感じるようになるのだろうか?

編集者の菅付雅信さんによる著書物欲なき世界』が11月4日に発売された。インタビューを通じて、ファッション、ライフスタイル、経済、思想、カルチャー……本書で編まれた横断的なトピックについて聞いた(文・佐藤慶一/写真・神谷美寛)。

モノではなく「コトやコミュニティを売る」

――ソーシャルメディアの普及によって誰もが丸裸にされてしまう実情を描いた『中身化する社会』(星海社新書)から2年越しの著書となります。前著とのつながりを教えてください。

菅付:今回の『物欲なき世界』は『中身化する社会』の続編に当たります。前著を書くなかで「物欲なき世界はどうなっていくのか」というテーマが見えてきました。

そもそも前著を書いたきっかけは、ファッションニュースサイト「モードプレス」の岩田奈那編集長から、トレンドではなく「ファッションがこれからどうなるのか」について考察する連載をしないかと依頼を受けたことです。

そのとき、現代はファッションが必要とされない社会になりつつあると思い、それをテーマに書こうと漠然と考えていました。数日後、たまたまニューヨークに行く予定があったんですが、世界でいちばんオシャレな街だったはずなのに、ニューヨーカーたちが本当にカジュアルになっていることに気付きました。

一般人だけでなくファッション業界の人までもが服装にお金をかけなくなりつつあることに強いインパクトを受け、ファッションにお金やエネルギーをかけるのは時代遅れになったのではないかという仮説を立てました。同時にその背景には、ソーシャルメディアの爆発的な普及が関係していると考えました。

当時(4年前)、新しいモノ好きなニューヨーカーたちは移動中やカフェで過ごす時間にとにかくタブレットやスマホを見ていました。多くの人がツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアを通じてファッション以外にも自分の考えや個性、スタイルを発信できてしまう。そうであれば、もうファッションにエネルギーを使う必要がなくなると思いました。

このきっかけをもとに調査や取材を進め、2013年2月に『中身化する社会』を刊行しました。ただ、その時点でまだ捉えてきていないテーマがあると感じました。先進国・先進都市でお金を使わないのはファッションだけではないと考えるようになったんです。

――お金を払わない対象が、消費全体になってきているのではないかと。

菅付:そうなんです。調べていくと、洋服だけではなく、先進国・先進都市において全体的に消費が落ち込んでいる。もちろんお金は使っているけれど、何に使っているかといえば住居費です。いまやニューヨークやサンフランシスコの市長選を左右するくらいの大問題にまでなっているのですが、たとえばマンハッタンで生活している人の平均住居費は生活費の半分近くを占めています。とんでもない比重です。

洋服や家電、車の購入が減っている一方で、住居費はどんどん上がっている。そのほかに消費が伸びているのは食です。モノを買わない代わりに、自分が口にする食事や人との食事にお金を使うようになっています。

こういった、モノを買わない先進国・先進都市の生活は何のサインを発しているのかを考えるようになりました。モノを買わなくなると、購買を前提にしていた消費社会や資本主義全体が立ち行かなくなってきます。そこに興味を持ち、本書を書こうと思いました。

――そこでモードプレスで「ライフスタイル・フォー・セール」という連載を開始したわけですね?

菅付:ええ。今度は「消費」をテーマに書かせてもらえることになりました。ファッションや流通業界において、モノを売るよりもライフスタイル提案やサービス販売へのシフトが顕著になってきている。その傾向――これは消費の最終段階だと思っていますが――を捉えようと思いました。

モードプレスはファッション業界とのコネクションが強く、ビームスの設楽洋社長や三越伊勢丹の大西洋社長らにインタビューする機会をいただきました。このような業界トップの方々がモノではなく「コトやコミュニティを売る」と公言しはじめていたので、いいタイミングで取材することができました。

「コミュニティを売る」というと聞こえはいいですが、もちろん商品を買ってほしいというのが本音だとは思います。しかし、先進都市の人たちはモノを買わずに、モノやスペースをシェアすることで、コミュニティにアクセスしたり所属したりすることが当たり前になりつつあります。

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