
ドイツのアイデンティティは崩壊の危機に
世界のマーケットにまたまた新たな懸念材料が台頭した。フォルクスワーゲンの排ガス不正スキャンダルである。
ことの発端は、米国の環境保護局が、フォルクスワーゲンとその傘下であるアウディが販売するディーゼルエンジン搭載車の一部が、米国の排ガス規制に関する試験をパスするために違法なソフトウェアを使用していたと発表したことであった。
さらに、そのソフトウェアを開発したのが、同じくドイツの代表的な大企業であるボッシュであり、ボッシュは、フォルクスワーゲン社からソフトウェア開発を請け負った段階でその不正を知っていた可能性も指摘されている(もっといえば、EUの規制当局も、フォルクスワーゲン社の不正を事前に知りながら放置していた疑いも取り沙汰されている)。
また、同様の不正は、フォルクスワーゲン社だけではなく、同じドイツの自動車メーカーであるBMWも行っていたとの指摘もなされており、問題は、ドイツの製造業全体の信頼性を大きく揺るがす事態にまで広がりつつある。
この問題がドイツ経済全体に与える影響については、悲観論、楽観論が入り乱れている。楽観論者の中には、「これは、米国の厳しすぎる排ガス規制に問題がある」として、自動車事故のような直接的被害が生じていないことから、それほど問題視すべきではない、という見方の人も少なくない。
だた、9月28日のニューヨークタイムズ紙は、「フォルクスワーゲンの偽証問題で、いったい何人の死者が出たのか?」と題した記事の中で、違法な排ガスによる大気汚染による健康被害が原因で死期を早めるであろう人の数は、世界中で年間300万人近くになり、2050年までにはその数は倍近くになるのではないかと論じている。
この記事の科学的根拠は明らかではないが、今後、世界の政策担当者らの関心が環境問題に向けられれば、ドイツは、これまでの「環境大国」というブランドイメージも失いかねない。製造業のおける「職人気質」、そして、「環境大国」というブランドイメージの毀損は、ドイツという国のアイデンティティさえを損なわれかねない深刻なリスクである。
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