読書人の雑誌『本』より
2015年08月25日(火) 森枝卓士

カレーライスはなぜ日本人の「国民食」になったのか

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〔PHOTO〕iStock

カレーライスと日本の近代

 

文/森枝卓士

明治天皇と伊藤博文が一緒にカレーを食べていた

明治17(西暦1884)年の12月27日。明治天皇はお昼ご飯にカレーを食べている。デザートにミルフィーユというフランス料理のコースの食事だが、その中に鴨肉のカレーがあった。

場所は延遼館。日本初の西洋石造風建築物にして、鹿鳴館以前の社交の場。浜離宮内にあって、多くの国賓を迎えた。東京都が2020年のオリンピックまでにこれを復元して、賓客を迎えるということで、その名がまた出てきている。

「御陪食」、つまり一緒に食事をしたその相手も分かっている。伊藤宮内卿。あの伊藤博文である。伊藤が初代総理となるのが、1年後。内閣制度さえなかった時代、伊藤博文と明治天皇が、一緒にカレーを食べていたということなのである。カレー好き、歴史好きには、ちょっとした驚きのエピソードではあるまいか。

そんな事実を発見したのも(そう、文字通り発見した。その間のエピソードは学術文庫版に書いている)、『カレーライスと日本人』という本を書いてしまったから。1989年、ちょうど昭和から平成に変わる年に講談社現代新書の1冊として、世に出してもらった本である。

もとをただせば、ちょっとした疑問だった。誰もが元々は外国から入ったもの、さらに言えばインドのもの、明治維新以降、新しく入ってきたものだと知っているカレー。それが、どうして、日本で国民食といえるほどの頻度で食べられるようになったのか。少し調べてみると、国民の平均で週に一度以上食べているというのである。

「日本料理」、「和食」とわたしたちがイメージするあれやこれやと比べても、よっぽど多いのではあるまいか。うん、そういえば、和食って何だろう? とても和食とは思えないものが、国民食といえるほど食べられていることを考えれば、それはまた、逆の意味で和食や日本料理と呼ばれるものを考える縁になるかもしれない。

明治以降の日本の近代化を、食の面から考えたいという想いもあった。司馬遼太郎のような大上段からの視点など恐れ多いものは持ち得ないから、卑近な、まさに日常そのもののカレーという食べ物から、日本の近代化というものを見てみよう。そんな想いから、小さな声でそんなことを言いながら、この本を書いたのだった。

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