日本一の書評
2015年08月29日(土) 週刊現代

脳科学者・中野信子さんが選ぶ「わが人生最高の10冊」

現実の先を行く想像力に魅せられて

週刊現代
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中野信子さん

現実と虚構の境目は実はあいまい

仕事柄、できるだけ本を読むようにしているのですが、好んで読むのはミステリです。江戸川乱歩賞やメフィスト賞受賞作品は大好きで、仰ぎ見るような思いで読んでいます。

1位は『クラインの壺』。ヴァーチャルリアリティ(VR)を題材にしたミステリです。この作品が書かれたのは1989年ですが、VR技術がほとんどなかった時代に、なぜこれほどリアルな描写ができたのか。著者の岡嶋二人(徳山諄一と井上夢人のコンビ)の先進性と想像力に圧倒される。と同時に、彼らに引っ張られて現実が追いついてきたのではないか、という気もしてきます。

この作品の魅力は、人間の認知の不確かさを想起させる点にあります。自分の見ている世界と、他人のそれとが同じものだという保証は、実はどこにもない。そして現実と虚構の境目も、突き詰めていくと実は曖昧です。

近年、脳科学では、電気的・化学的な反応の集合から、どのようにして主観的な意識が生まれるのかという「意識のハード・プロブレム」が話題ですが、この作品にはそれを示唆する問題提起すら含まれていて、思考の種としても読み応えのある作品です。

2位は理系ミステリの走りと言われた森博嗣先生の作品。ファンなら、デビュー作の『すべてがFになる』を挙げるのが王道かもしれません。が、それでは、カラオケで聖飢魔IIを歌う時、大ヒット曲「蝋人形の館」ばかりを歌うようなもの。他にもいい作品がたくさんあるという天邪鬼な気持ちから(笑)、『笑わない数学者』にしました。

親族が集った奇妙な館で起きた殺人事件。大筋のトリックはきちんと解かれるのですが、この本にはもう一つ、大きなトリックが隠されています。

数学では、解はあっても一つに定まらない場合「解は不定」と言います。その状態を文学的に表現したのが、もう一つのトリック。かっこいい、と痺れました。

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