社長の風景

家に良書が300冊もあれば、子どもはそのうちどれかと触れ合って、勝手に賢い子に育ちますよ

紀伊國屋書店 高井昌史社長に聞く

2015年08月20日(木)
週刊現代
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出版業界のご意見番に話を聞いた。高井昌史氏(67歳)、国内はもとより世界に書店網を持つ、紀伊國屋書店の経営者だ。劇場を経営し、現在は電子書籍やネット販売にも注力する同社。その経営の根本には、文化を愛する高井氏の熱い経歴があった。

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たかい・まさし/'47年、東京都生まれ。'70年に成蹊大学法学部を卒業後、'71年に紀伊國屋書店に入社。学術書の営業となって関東、関西の大学を担当。'75年から宇都宮営業所長となり、図書館の設立などに尽力、情報製作部長などを経て、'93年取締役に就任。常務、専務などを歴任し、'08年より現職

出世払い

紀伊國屋書店への入社後、大学を中心に、洋書を含む学術書を売り込む営業職に就きました。でも大学の助手の方などは、とにかくお金がなくて、すべてツケ(笑)。でも彼らの書架を見ると、書籍が読み込まれていて、相当勉強していることがわかるんです。結局、上司に怒られながらも、ツケで書籍を売り続けました。

しかし、かつて出世払いで書籍を買った人ほど立派な学者になって、「高井さん。この全集丸ごと買うよ」などと言ってくれるから面白いものですね。もちろん当時「将来、人脈になる」なんて思ってたわけじゃないんですよ。

文化を創る

紀伊國屋書店の創業者・田辺茂一は、文化の発信に一途な情熱を持っていました。紀伊國屋ホールをつくって芝居をやり、画廊も持って、出版部は外国文学の翻訳などで実績がありました。私もそんな社風に惹かれて入社した一人です。

ところが実際入ってみると、茂一は遊び慣れているようで、いつも銀座のお店の人が、会社に取り立てに来るのです。「えらい会社に入った」と思いました。

しかし真相は違った。彼は、無名の作家や演劇人を、銀座のいい店に連れて行っていたんです。ほかにも、作り手が情熱を持っているけど売れない文芸誌があると、次号が出る直前に自分が全部買って「売れたよ」とおカネを渡していたという逸話もあります。

荷を捨てる

茂一はよく「軽荷主義」という言葉を使いました。彼は、嫌なことや、自分にとって難しいことはやらない。徳川家康の「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如し」の格言とは逆を行く。

もちろん好きなことでは、苦労もしたでしょうが、彼に言わせれば、それは苦労じゃない。よく「人生なんか、すたこらさっさ」「重い荷物しょって、何十年も歩き続けられるわけがないもの」とも言い、思うがままに生きていました。

そして時々、生き方を本にまとめるのですが、内容に学術書とはひと味違う軽さがあるから、自分が立ち上げた紀伊國屋書店の出版部からは出せないんです(笑)。ほかの出版社に「出したい」と訪ねて歩いていたと聞きました。

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