町田徹「ニュースの深層」
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内外メディアが厳しい眼を向けるのは当たり前
日経出身の私だから言える
「FT買収」は英断か、無謀か

2015年07月28日(火) 町田 徹
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【PHOTO】gettyimages

買収「成功のカギ」はなにか

「迷い足」という日足(1日の株価の軌跡)をご存じだろうか。前日より高い価格で1日の取引を終えたものの、その日の高値で終わるほどの勢いはないことをいう。市場では期待する気持ちが支配的ながら、確信を持つには至らない状態だ。

テレビ東京ホールディングス株が先週末(7月24日)に見せた、「迷い足」の動きこそ、親会社の日本経済新聞社(株式非公開)による英フィナンシャル・タイムズ(FT)の100%買収に対するマーケットの現時点での評価といってよいだろう。

大手メディアの買収劇というと、新興メディアによる伝統的メディアの吸収ばかりが目立つ中で、140年の歴史を持つ新聞社の日経が、創業127年を誇る新聞社のFTを買収するというのは、世界規模で見ても異例のチャレンジ(挑戦)である。

日本語という厚い防御壁の中、人口減少とデジタル化で縮小均衡に甘んじてきた日本のメディアから、その壁の外へ成長機会を求めようというチャレンジの第1号でもある。果たして、この野心的な挑戦は成功するのだろうか。成功に必要な鍵は何なのか探ってみたい。

「ご出身の日経新聞ですが、発表によると、FT の買収に1600億円も費やすそうですね。早朝から電話で恐縮ですが、コメントしていただけませんか」――。

18年間にわたって記者として育ててくれた日本経済新聞社を退社して、フリーランスになって13年以上が過ぎた7月24日の朝、私は夕刊フジからの電話で起こされた。

醒めない頭に浮かんできたのは、2013年11月に日経が電子新聞「NAR(Nikkei Asian Review)」を創刊した時の裏話だ。同社は過去に、経済情報機関という他の日本のメディアにない特性を活かし、英文日経や「Tokyo Financial Letter」などの媒体を発行して何度も海外展開を試みてきた。そして、背水の陣で創刊したのがNARである。当時の戦略は自前路線。つまり、投資額とリスクを抑えて、小さく生んでじっくり育てようというものだった。

だが、当時の日経には、別の選択肢もあった。親会社ピアソンが売却する意向らしいとされていたFTを買収するという選択肢である。投資額はNARとは比較にならないほど巨大だが、貴重な時間を節約し、世界に通用するブランド力を持つ新聞や電子媒体の事業を迅速に手に入れられる選択肢だった。電話で起こされてコメントを求められた私は、日経が改めてリスクの大きいFT買収を決断したのだと直感した。

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