乙武洋匡「二十歳の疑問」

平和講義Ⅱ:星野了俊先生「日本はこのまま、戦争と無縁でいられるのでしょうか?」

2015年05月20日(水) 乙武 洋匡
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星野了俊先生と乙武塾の生徒たち
二十歳前後の次世代を担う若者とともに、日本の未来を考えることを目的に開講している「乙武塾」。本連載では、乙武塾オンライン版として、そこでの学びをみなさんに共有させていただきたいと思います。(構成・友清哲)

平和講義Ⅰはこちらからご覧ください。

日本はこのまま"平和"を維持できるのか?

乙武:前回の講義では、戦後日本の安全保障の基礎を、歴史の流れを踏まえながら追っていきました。今回はこれから先の平和について、日本が戦争に参加する可能性も含めて、より深くテーマに踏み込んでいきたいと思います。講師は前回に引き続き、戦略・安全保障アナリストの星野了俊氏。改憲問題に揺れる日本が、現在のような平和を維持していくためには、近隣諸国とどのように付き合っていくべきなのか? いま私たちに何ができるのか? そして本当の意味で日本にとって脅威となる国はどこなのか? 学生たちの疑問や意見を交えながら、議論していきたいと思います。

世界は平和に対してどう取り組んできたのでしょうか?

〈学生からのQuestion.1〉

学生: 最近でこそ改憲問題がクローズアップされ、人々に危機感が芽生えつつありますが、それでも日本は戦争を放棄し、戦後から70年にわたって平和を維持してきました。世界各国は平和に対してどのような取り組みをしているのでしょうか?

国際社会における"平和"の歴史を考える

〈星野先生からのAnswer〉

星野: まず、考えてみてほしいことがあります。ひとくちに「平和」と言っても、それはどのような概念で共有されるものなのでしょうか。

現代の国際社会における「平和」の概念は、1928年の「不戦条約」に端を発していると考えられます。その成立のきっかけとなったのは第一次世界大戦ですが、それまでの戦争は、基本的に軍隊と軍隊の交戦で完結するものでしたから、犠牲者数も限定的なものにとどまっていました。ところが総力戦となった第一次世界大戦では、民間人を巻き込んでおよそ1,000万人もの命が奪われたのです。

これは当時の国際社会に大きな危機感を与えました。このままでは人類の存亡が危ういと、多くの人が気付いたわけです。そこでアメリカのケロッグ国務長官とフランスのブリアン外相の提唱により、1928年8月に、日本を含む15ヵ国によって調印されたのが不戦条約でした。のちに63ヵ国が参加したこの条約は、国際紛争を解決するための手段としての戦争を否定し、紛争の平和的な解決を約したもので、戦争違法化の先例となった国際条約です。

しかし結局、人類は第二次世界大戦の勃発を食い止めることができず、再び全世界で数千万人規模の戦争犠牲者を出してしまいます。その経験を踏まえ、戦後は国連を中心に世界平和へのさまざまな取り組みが活発化します。たとえば1948年12月の第3回国連総会で採択された「世界人権宣言」。これは人々の人権と自由を尊重するために、「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」を宣言したものです。さらにこれを条約化したのが「国際人権規約」で、人権に関する諸条約のなかでもっとも基本的な内容となっています。

なお、日本は1979年にこれに批准しています。1992年にガーリ国連事務総長によって発表された「平和への課題」では、世界平和をより強化するために国連が実施すべき課題が論じられ、また、近年自衛隊も積極的に参加するようになった国連PKOには先進国以上に、バングラデシュやパキスタン、インド、エチオピアなどといった途上国・新興国から多くの人員が派遣されています。他にも、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処や国際テロリズムへの共同対処、核軍縮、またODAなども広義での平和に大きく貢献していると言えるでしょう。

このように、まず人類がめざすべき「理想の平和」が掲げられ、国際社会において平和の概念や規範を共有し、国際法と国連による集団安全保障体制の下、世界各国が自国の国益の追求のみならず、国際平和協力活動をはじめとするさまざまな取り組みを実施しています。

日本にとって最も"脅威"となる存在はどこの国?

〈学生からのQuestion.2〉

学生: 近い将来、国際協力という大義のもとに、日本が再び戦争に参加することはあり得るかもしれません。しかし、そういうかたちではなく、たとえば周辺国から軍事的な攻撃を受けるなどして戦争が勃発する可能性があるとしたら、私たちが最も脅威と考えるべきは、どの国でしょうか。

国際関係を見るうえで着目すべき点

〈星野先生からのAnswer〉

星野: 19世紀のイギリスの宰相パーマストンが、次のような言葉を残しています。「大英帝国には、永遠の同盟国もなければ、永遠の敵国も存在しない。大英帝国の国益こそが永遠であって、不滅なのだ」。当時のヨーロッパは、ナポレオン戦争後のウィーン体制を経て、イギリスが圧倒的な軍事力と経済力に裏打ちされた「パクス・ブリタニカ」を実現した時代です。イギリスはバランサーとして、周辺諸国との同盟を巧みに組み替えながらヨーロッパの平和と安定に寄与していました。つまりパーマストンのこの言葉は、"国家は第一義的に国益を追求する主体"であるという主張であり、これは現在でも国際関係の大原則とされています。

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