
為替レートが120円に達して、日本企業の横綱であるトヨタ自動車は最高益を更新することが確実だ。一方、十年位前のイメージなら、日本の製造業は自動車が東の横綱なら、電機が西の横綱であるはずだった。
特に、パナソニックはかつて「松下銀行」などと称された資金力などもあり、「電機のトヨタ」と呼んでいいようなポジションを確保していておかしくなかったように思うのだが、一応黒字ではあるものの、旧日の勢いが感じられない。
神様の手抜き
どうしてこうなったのかという疑問に答える書籍が登場したので、本稿では、この本から汲み取ることが出来る教訓を拾ってみたい。
会社の経営に利害か興味を持つ全てのビジネス・パーソンが是非読むべき書籍は、岩瀬達哉「パナソニック人事抗争史」(講談社、2015年4月1日刊)だ。この本を読むと、近年のパナソニックの意外なもたつきの原因が納得的に分かる。
加えて、ビジネス・パーソンは、幾つかの実用的な教訓をこの本から得ることが出来るだろう。何より興味深い題材だし、書名から想像されるよりも冷静かつ客観的に書かれているので、読後感は悪くない。
さて、今のパナソニックこと、かつての松下電器は、今でもしばしば「経営の神様」と称される松下幸之助氏が創業した会社だった。松下電器の2代目社長は、幸之助氏の娘婿で血筋の良い銀行員だった松下正治氏だったが、幸之助氏は、正治氏の経営的な能力を買ってはいなかった。
しかし、幸之助氏は、娘婿で、可愛い孫の父親でもあった正治氏を自ら切る事をせずに、「22人抜き」で3代目の社長に抜擢した山下俊彦氏に、正治氏を松下の経営から遠ざけるように申し送る。
ところが、山下氏は、幸之助氏の意向を理解しつつも、自分を引き上げてくれた正治氏に引導を渡すことをせず、4代目の社長となった谷井昭雄氏に正治氏を経営から排除するように申し送り、谷井氏がこれに従ったことから、創業家出身の会長である松下正治氏と4代目社長である谷井氏の間に「抗争」が発生し、松下電器の経営は、この抗争によって大いに迷走することになる。
成功した経営者は、たいてい何かが優れている。そして、その長所はしばしば過剰に美化される。しかし、全てが優れているということは殆ど無い。あの松下幸之助氏でさえ、後継者のコントロールが十分に出来なかった。
しょせん、人間が行う経営に、「万能の神様」のような経営者はいないのだということを第一の教訓として読み取ることにしよう。
事後的に見て、身内を自分の手できっぱり切ることができなかったカリスマ創業者・松下幸之助氏の逡巡が、後のパナソニックに大きな負担をもたらした。「神様の手抜き」は大変高くついた。
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