わき道をゆく~魚住昭の誌上デモ
2015年02月01日(日) 魚住 昭

「憎しみ」を売る人々

魚住昭の誌上デモ「わき道をゆく」第101回

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読者に是非お薦めしたい本がある。『NOヘイト! 出版の製造者責任を考える』(ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会編・ころから刊)だ。

新書判144ページの薄い本なのだが、内容は濃くて深い。書店に嫌韓嫌中のヘイト本をあふれさせているのは誰か?今まで誰も表立って問わなかった出版の製造者責任を、業界内部の人間たちが悩み苦しみながら告発している。

メンバーはさまざまな出版社の社員やフリーの編集者、それに書店員ら約20人。彼らの気持ちは次の文章によく表れている。

〈いつの頃からか、ヘイトスピーチが私たちの日常の風景になりました。/書店には「嫌中」や「嫌韓」を堂々と掲げた本が無数に並び、車内広告にはまるで戦争前夜のような煽り文句が躍ります。/「差別は許されない」といくら表の顔で語ろうと、公のメディアの上であからさまに他国や他民族を蔑視した言説が許容されている現実のもとでは虚しく響きます〉

〈どこかで良識のブレーキがかかると信じたい気持ちはあります。/しかし万一、そのブレーキがかからなかったとき、出版業界は果たして何の責任もなかったと言えるでしょうか。/取り返しのつかない結果の後で、いかに「反省」を口にしても遅いことは、この国の歴史が示しています〉

私も同じ業界の住人だから、本を愛する彼らの切ない気持ちは痛いほどわかる。たしかにヘイトスピーチは今や日本の出版界の「日常の風景」だ。まともな神経では読むに堪えないヘイト本が続々と出る。その内容の低劣さはタイトルをざっと眺めただけでもよくわかる。

『もう、この国は捨て置け! 韓国の狂気と異質さ』(ワック刊)
『韓国とかかわるな! 韓国とかかわると人も国も必ず不幸になる―Kの法則』(アイバス出版刊)
『笑えるほどたちが悪い韓国の話』(ビジネス社刊)
『日本人が知っておくべき嘘つき韓国の正体』(小学館刊)
『中国人韓国人にはなぜ「心」がないのか』(ベストセラーズ刊)

言うまでもないが、これは全国の書店に並ぶヘイト本の極々一部である。実際には膨大な数のヘイト本が書店の棚に並んでいる。

日本の書店にそれだけ嫌韓本があるのだから、おそらく韓国の書店にも「反日」本があふれているのだろう。私はてっきりそう思い込んでいた。

ところが実情はまったく違うらしい。『NOヘイト!』の著者の一人、フリーエディターの加藤直樹さんはソウルに行くと、いつも教保文庫に立ち寄る。教保文庫は日本の紀伊国屋書店のように大きな書店だ。そこで嫌韓本に対応するような「反日」本、つまり『日本人にはなぜ「心」がないのか』『悪日論』『「妄想大国」日本を嗤う』といったタイトルの本を見たことがないという。

加藤さんはその証拠に教保文庫の日本関連の書棚を中心に撮影した写真を掲げている。国際政治・外交のコーナーには『公共外交概論』『アメリカ外交政策』『外交官として生きること』などアカデミックな本が並んでいる。

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