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「南海トラフ巨大地震が来る」世界的科学誌『ネイチャー』に発表された驚愕の調査結果

 南海トラフ巨大地震は確実にやってくる。問題はそれがいつ起きるかだ。海外で発表された論文は、その予知が実現する可能性を示していた。日本政府・学界が及び腰の予知研究の最前線がここにある。

サインは見過ごされていた

「この現象が、ほとんどの大地震の前に起こっているということを認識していれば、東北の大地震(東日本大震災)の2日前にM7・3の地震が起きたとき、日本の専門家たちは、次に巨大地震が来る可能性を事前に警告することができたのではないかと思います」

 1811年に創設されたフランスの名門校ジョセフ・フーリエ大学の研究者ミシェル・ブション博士は、こう無念さをにじませた。

 実はいま、ブション博士らの発表したひとつの論文が、日本の地震研究者や政府関係者の顔色を失わせている。論文の内容が、

〈巨大地震の前兆は、既存の観測態勢で、特段新しいことをしなくても見つけられたはずだ〉

 ということを意味するものだったからだ。

 東日本大震災について、日本政府や学界は「科学技術が追いつかず、まったく予知できなかった」というのが公式のスタンス。しかし、実際にはそうではなくて、単に「前兆が見過ごされていた」に過ぎない可能性が出てきたのである。

 このまま手をこまねいていれば、次に来る南海トラフ巨大地震の前兆も「データは取れていたが誰も気づかなかった」という事態になりかねない。

 だが、ほとんどの読者はこの重大な問題をご存じないだろう。なぜなら、新聞もテレビも、この件を一切報じていないからだ。

 一体、ブション博士らは何を発見したのか。問題の論文は、世界でもっとも権威ある科学誌のひとつ『ネイチャー』の地質学部門『ネイチャー・ジオサイエンス』電子版で配信された。

「私たちの研究では、東日本大震災のように(海底の)大きなプレート(地殻)の境目で起きるほとんどの地震で、はっきりと『前震』が起こっていたとわかったのです」(ブション博士)

確率は8割

 前震とは、大きな地震の前に、その震源周辺で起こる、比較的小規模な地震のこと。前兆現象の一種だ。だが、これまでの地震学の常識では、前震は起こる場合も起こらない場合もあり、とらえるのが非常に難しいとされてきた。

 そこで、ブション博士らは、観測態勢の整っている日本沿岸を中心とした太平洋沿岸で、'99年1月1日~'11年1月1日に起こったM6・5以上、震源の深さが50kmより浅い地震を抽出。

 このうち東日本大震災や南海トラフ巨大地震と同じ、プレート境界で起こるタイプの地震31個を調べたところ、25個の地震で、大きな地震(本震)の前に、震源周辺の地震活動が活発化する、前震の増加がはっきりと観測されていたことが判明したのだ。

 たとえば、'05年12月2日の宮城県沖地震(M6・5)では、地震4日前から最大M2・9の小さな地震が頻発。本震直前の4時間でさらに小さな地震が急増していたことが分かっている。

 こうした現象が、31回中の25回で観測されていた。率にして、実に8割—。「前震はあるかないかわからない、あっても普通の地震と区別できない」などと言って傍観している場合ではない。海溝型地震が起こり得る地域では地震活動が活発化した段階で、「これは大地震の前震の可能性が高い」と考えるべきなのではないか。

 電磁気による地震予知の研究が専門の、東海大学地震予知研究センター長・長尾年恭教授は、こう話す。

「これほどはっきりと前震がとらえられるというのです。ならば、『この地域はいま大きな地震が来そうになっていますよ』と警告を出すシステムを作るのに、技術的困難はまったくない。

『ここまで前震が活発化したら警告を出す』という値(閾値)をあらかじめ決めておいて、あとは従来通りの観測態勢で見守っていればいいのですから」

 関係者が青ざめたのは、この研究で博士らが用いたデータが、何も特別なものではなかったからだ。彼らが利用したのは気象庁も観測している、ごく一般的な地震計のデータだった。

 実際、東日本大震災の直前には2月13日から地震活動の活発化が起きていた。M5以上の地震だけでも4回もの地震が震源地域で起きていたのだ。さらに、冒頭でブション博士が指摘した震災2日前の地震後は、継続的に地震が続いていた。気象庁はこれについて、

「震災2日前の地震の余震かもしれず、前震とは区別がつかなかった。前震は本震が来てみないと、そうだったかどうかわからない」

 としているが、そもそも前震はわからないものだという思い込みが、目を曇らせていた可能性がある。

 この論文を気象庁はどう受けとめたのか。同庁地震火山部地震予知情報課の見解の要旨はこうだ。

「この論文の結果は、多くの地震のデータを集めて研究することで初めてわかったもの(結果論)であり、実際にどこかで地震が活発化したときに、あらかじめ大きな地震の前震であるかどうかを見分ける方法を述べたものではありません」

 あくまで予知には役に立たないと否定的だ。

確実な前兆がある

 それもそのはず、実は'95年の阪神・淡路大震災以降、日本の行政も学界も、予知研究をまじめにやる気がまったくなくなっていた。当時、大地震を予知できなかったとの批判を受けて、政府も学界も、自ら予知研究を放棄し、責任を追及されないための体制を作り上げてきたからだ。

 何しろ、気象庁には、独自に地震予知を研究する権限がない。

 大学の地震研究者に研究費をつける文部科学省の地震・防災研究課長は'08年以降、代々が農林水産省からの出向。地震や防災とは縁もゆかりもない官僚で、最先端の研究のことなど知るよしもない。

 そして'12年10月にはついに日本地震学会が「地震予知検討委員会」を廃止すると発表。挑戦しても、失敗すれば責任問題になるだけの地震予知から、誰もが目を背けようとしているのだ。

 だが、そうしている間にも、南海トラフの巨大地震は確実に近づいている。

 すでに繰り返しお伝えしているように、南海トラフ巨大地震は最大で死者32万人、経済的損失220・3兆円、被災者950万人という途方もない被害をもたらす大災害だ。

 震源地域は大きく3つに分かれており、駿河湾から静岡県沿海部の沖合を震源とする東海地震、愛知県~和歌山県沖を震源とする東南海地震、和歌山県~高知県沖を震源とする南海地震がある。この3つが連動して起こる3連動地震が発生すれば、名古屋、大阪の大都市圏や、太平洋沿岸の工業地域などが最大震度6強~7の揺れに襲われ、さらに場所によっては30mを超える巨大な津波の襲来を受けて、日本の社会・経済はいっきに壊滅寸前の状況に追い込まれる。

 この南海トラフ巨大地震の前兆も、東日本大震災と同じように見過ごされてしまうのか。それは絶対に避けなければならない。

 実は、すでに予知研究を行っている科学者のなかには、この南海トラフでの大地震の前兆をとらえているかもしれない、と話す研究者がいる。

「2013年に入ってから震度5弱以上の地震はこれまでに8回ありましたが、そのすべてについて我々は異常を検知しました。昨年は震度5弱以上の地震16回のうち、12回で異常を発見しています。

 ですから、昨年は75%、今年はいまのところ100%の確率で予測が当たっていることになりますね」

 そう語るのは、測量学が専門の村井俊治東京大学名誉教授だ。村井氏らは、国土地理院の設置しているGPS観測網を利用して、独自に地震の前兆現象をとらえる試みを行っている。

 たとえば右のグラフを見てほしい。グラフ(1)は東日本大震災の前に宮城県牡鹿半島に設置されたGPSが示した変動だ。3月11日の数日前から、大きく大地が動いていたことがわかる。

 一方、グラフ(2)は、今年4月13日に兵庫県淡路島で起きたM6・3、震度6弱の地震の前、紀伊水道を挟んで淡路島の対岸にあたる和歌山県広川のGPSがとらえた前兆現象だ。

「我々が使っているのはGPSです。昔は山の上には測量のための三角点というのがありましたが、現代ではその代わりに国土地理院の電子基準点(固定GPS受信局)が全国1270ヵ所に設置されています。

 GPSというと、カーナビなどをイメージされるかもしれませんが、カーナビの誤差は1~数m。一方、この電子基準点の誤差は数ʔで非常に精度が高いのです」(村井東京大学名誉教授)

 この高性能の電子基準点が、地震の前兆をとらえていたという。

「私たちは約160回分の地震時のGPSデータを調べ、地震が起こる前の段階で変動が起こっていることを突き止めました。あまり小さな地震では前兆がとらえにくいのですが、M6以上のものならGPSでとらえることができます」

「危険な時期」も分かってる

 実はいま、このGPSの観測網に、驚くべき異変が観測され始めていると村井名誉教授は話す。

「今年1月からの、四国周辺に設置されている複数の電子基準点の動きを見ると、6月以降、我々が警戒すべき移動幅と考えている値を超える動きをする観測点が急速に増え始めている。

 愛媛県の宇和島から高知県室戸、和歌山県金屋まで、きれいに南海トラフに並行して異常値が出ています。東海、東南海では異常が出ていないので、3連動ではないけれども、南海トラフを震源とする南海地震が起きる可能性があるのじゃないかと思っているのです」

 その地震の規模について、村井名誉教授とともに予知情報を提供している、地震科学探査機構(JESEA)の顧問を務める荒木春視博士はこう語る。

「南海地震の震源の断層の長さからすると、M7以上になるでしょう。沿岸部での震度は6強になる可能性があります。紀伊半島から九州までの範囲で津波が大きくなる危険性もある」

 では、その地震はいつ発生すると考えられるのか。

「巨大地震の予兆は6ヵ月くらい前には出ますので、これから冬にかけてが警戒すべき時期と言えるでしょう。今年の12月から来年の3月までを警戒期間としたい」(村井名誉教授)

 実は、この研究とはまったく関係のないところで、本誌は村井名誉教授らの予測と奇妙に符合する証言を聞いている。武蔵野学院大学の島村英紀特任教授が語った、こんな言葉だ。

「これは学問的にはまったく解明されていないことなんですが……。歴史上知られている南海トラフ地震と思われる地震は13回あるんです。その13回はすべて、8月~2月にかけての期間に起こっている。不思議なことですが3月~7月の間には起こっていない。これがまったくの偶然で起こる確率は、統計学的にみて2%程度。しかし、原因はまったくわからない。

 さらに言えば、13回のうち5回が12月に起きているんです。もし季節が地震に影響するなら、8月になれば危険シーズンに入り、12月が一番危ない、ということになるでしょう」

 ますます現実味を帯びる南海地震の予測。だが、村井名誉教授は、現状では地震の直前になればなるほど、GPSでの予知は限界に行き当たってしまうと話す。

「問題は、地震の本当の直前期には、我々はリアルタイムに警告を発せられないということなんです。なぜかというと、電子基準点を運用する国土地理院が、計測の2週間後にならないとデータを開示してくれないからです。計測自体は24時間、30秒おきにされているにもかかわらず、ですよ。

 彼らは、リアルタイムでは間違いがあるかもしれないから、正確かどうか確認してからでないと公開できない、という。その理屈はわかりますが、人の命を救うために使えるのだから、多少データが粗くても構わないと思うのですが……」

「満ち潮」に注目せよ

 ここでもうひとつ、日本のメディアではあまり注目されてこなかった研究成果を紹介しよう。

 それは、'12年12月、ごく地味な科学記事として新聞が報じた「東日本大震災は、月と太陽の引力の影響が大きい時期に発生した」という防災科学技術研究所の田中佐千子研究員の成果だ。

 実はこの研究は、巨大地震の発生する時期を予測する強力な武器になるかもしれない可能性を秘めている。田中研究員とともに共同研究を行ったことのある、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のエリザベス・コークラン博士はこう語る。

「地球には、月と太陽の引力の影響が及ぼされています。たとえば、月と太陽の引力は海水をひきつけ、満ち潮と引き潮を生み出しますね。それと同じで、地球自体も一日に2回、大きく変形させられ、地表面が20cmも動いている。これを地球潮汐と言います。

 私たちは'04年にこの地球潮汐と潮の満ち引きによる海洋荷重が、断層にどのようなストレスを与えるかを研究しました。'77~'00年に起こった地震2027件について調べたところ、その75%が、潮位が基準海面より1・8m以上高いときに起きていたのです」

 断層の上に月と太陽の引力で海水が引き寄せられ、満ち潮になると、断層には重みがかかる。地殻変動の結果、地震が起きやすくなっている場所にこうした力が加わると耐えきれなくなった断層がはじけ、地震が発生するという。コークラン博士はこう続ける。

「田中さんの最近の研究では、東日本大震災の前36年間に震源の近くで起きた地震約500件を調べると、巨大地震に近づくにつれて、高潮のときに地震が起こる割合が増えていたのです」

 つまり、冒頭でフランスのブション博士が指摘した東日本大震災の前震の多くは、東北沖で潮が満ちたとき起きていたのだ。

「この方法を、すぐに地震の短期的な予測に結びつけるには、いくつかの大きな困難があります。ただ、もしあらかじめ地震が懸念されているエリアがあるのであれば、巨大地震の前に起こる地震と潮との相関関係を見ることで、巨大地震を予測できるかもしれません」(コークラン博士)

 私たちが次に地震が来ると心配しているエリアは、すでに決まっている。南海トラフの周辺だ。ならば、このエリアで潮が満ちたときに前震が頻発するようならば、それが明確な危険信号になるのではないか。

 直近で、南海トラフに近い高知県の室戸岬周辺が8月で最も潮位の高い大潮となるのは8月21日前後。以後、9月20日、10月6日、11月4日、12月4日前後が各月の最高潮位となる大潮の日だ。これらがXデーとなる可能性は否定しきれない。

 この他にもいま、さまざな手法で地震の予知に真剣に取り組もうとしている研究者たちがいる。右はその一部を示した表だが、なかでも最近注目を集めているものを2つ、ご紹介しよう。

■上空の電子数計測

 北海道大学理学研究院の日置幸介教授らは、東日本大震災の直前に、東北地方の上空で電子の数が多くなっていたことを発見した。

 地球の大気にある「電離層」と呼ばれる部分では、宇宙から降り注ぐ放射線が空気にぶつかって分子中の電子が弾きだされ、空中の電子の濃度が高い。

 前出の村井名誉教授らも使った高精度のGPS受信機は、上空2万kmの位置にあるGPS衛星からの電波を使って自分の位置を知るが、衛星から出るマイクロ波は、電離層にある電子にぶつかって、地上に届く時間が少し遅れることが知られている。

 日置教授らは、大地震の直前にGPSの電波がどれだけ遅れていたかを計算した。すると、東日本大震災では約1時間前から上空に異常があらわれはじめ、次第に上空の電子が増えだしたというのだ。

 同様の異常は'04年12月と'07年9月のスマトラ沖地震(それぞれM9・2、M8・6)、'10年2月のチリ地震(M8・8)直前のデータからも読み取れた。

 この手法を使えば、1時間前という、まさに直前の大地震予知が可能になるかもしれないのだ。

巨大地震は絶対予知できる

■深部低周波微動

 防災科学技術研究所の提供する、人の感じない程度のわずかな地震も記録するHi-netの情報をもとに、近年解析が進んだもの。

 とくに東海地方や紀伊半島周辺では、人が感じるような地震(有感地震)の数日前から直前にかけて、地下30km付近で起こるゆっくりとした揺れ(深部低周波微動)が起こることがわかってきている。

 たとえば、'11年8月1日に駿河湾で起きたM6・1の地震の2~3日前には一日に40回近い深部低周波微動が観測されている。ちなみに地震の1ヵ月前までや地震後は、深部低周波微動はほとんど起きていない。

 東海地方の地震・防災関係者の間では、これが来るべき南海トラフ巨大地震やその一部である東海地震の直前予知に結びつく可能性があると期待を集めている。

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 さまざまな研究が示す、南海トラフ巨大地震予知の可能性。その情報に接したとき、私たちはどうすればよいのか。都市防災が専門の渡辺実・まちづくり計画研究所所長はこう話す。

「残念ながら、現状では政府が責任を持って予知情報を発信してくれる仕組みは、東海地震以外、存在しません。もし個人レベルで予知を聞いても、むやみに他人に言わないことです。『会社を休んだのに何もなかったじゃないか、お前のせいだ』と責められても、誰も守ってくれない。

 逆に言えば、もし研究者が個人的に『地震が来そうだ』と発表したときは、それだけのリスクを背負って発言したことになる。その勇気や誠意だけは、もし外れても評価していいでしょう」

 いずれにしろ、南海トラフ巨大地震は必ず来る。そのときまで、本誌は引き続き科学者たちの言葉をお伝えしていく。

「週刊現代」2013年8月17日・24日号より