ANAに残されたのは「再上場したJAL買収」の秘策?!経営破綻を誰よりも早くスクープしたジャーナリストが問う、JAL再建は本物か

『JAL再建の真実』著者・町田徹インタビュー
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──ライバルのANAは競争の不公平性について、たびたび苦言を表明しています。本のなかでも触れられていますが、今回のJAL再上場にあたって、ANAに秘策はあるのでしょうか。

町田 政府や政治家、官僚に苦情を申し立ててもほとんど相手にされてこなかったのがANAの実情です。相手にされた場合も、政策的な、本来あるべき姿を離れて、利害関係者の都合のいいように捻じ曲げられてきました。自民党が主張しているJALへの赤字路線の復活強要は、その典型例といってよいでしょう。

 秘策という意味では、いっそのこと、JALにTOB(株式公開買い付け)をかけて、資本の論理で呑み込んでしまったほうがよっぽどすっきりするでしょう。そうすれば、JALが破綻会社として享受している税制の優遇措置などを引き継ぐこともできますし、歴史的に国策会社としてJALが成田空港で得てきた離発着枠の権利獲得などの効果も大きいはずです。

 実は、ANAは過去数年、何度も関係者からJAL買収を持ちかけられながら、リスクを嫌い、逃げ回ってきました。見方によっては、ANA株より割安な水準で、JAL株が再上場されるのは、ANAにとってJALを買収して問題を解消する千載一遇のチャンスです。ANAの伊東(信一郎)社長は積極果敢な性格の攻めの経営者ですから、荒唐無稽なアイデアではないと私は思っています。

──最後になりますが、今後の航空業界を取り巻く環境の厳しさを本のなかでも指摘されています。本の帯にも書かれています「JAL再建は本物か?」という問いにはどのように回答されるのでしょうか。

町田 さまざまな弊害が存在するとはいえ、再建そのものは本物です。再上場に漕ぎ着けた結果、税金が無駄遣いされなかったことは、国民として素直に喜んでいいのではないでしょうか。

 公的資金の投入時、企業再生支援機構は、1株当たり2000円でJAL株を購入しましたが、ほんの3年程度で再上場が実現し、1株当たり3790円で証券会社に引き受けさせることができたのですから、大変なプレミアム付きで税金を回収できたことになります。

 しかも、今回のJALの決算書を読むと、かつては簿外処理していたリースなどの債務を帳簿にきちんと取り込んでおり、表面的な数字ヅラ以上に、経営は改善しています。

 ただ、注意してほしいのは、そうした成果の賞味期限はせいぜい2、3年しかないということです。JALが本当に競争力のある企業として、世界の航空会社と渡り合って生き残っていけるのか、再び放漫経営に陥ってダメになるのか、今後の推移を見守らないことには断定的なことは言えません。

 企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化します。どんな企業であれ、経営改善を嫌がっていては生き残っていけないのです。そのことは、再建を果たしたJALにも当てはまる真理と考えていただきたいと思います。 

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