企業・経営
コモデティ化した商品にイノベーションをもたらす会社 ダイソン、その強さの秘密に迫る【前編】 取材・文 小林弘人
英国ハイテク企業はマレーシアを目指す
新製品のタワー & デスクトップ型エアマルチプライヤー発表会にて。写真の人物はダイソン・マレーシア で開発の統括を行うインダストリアル・デザイン・ディレクターのアレックス・ノックス氏 〔PHOTO〕小林弘人(以下同)

 技術的にもはや進化することがないと思われていたコモデティ(日用品)化した家電製品が突如、新しい技術革新(イノベーション)と共に生まれ変わることがあるだろうか――。その答えはダイソンが知っている。           

ダイソン流・家電革新

 昨年に発表されて話題となった"羽のない扇風機"、ダイソン・エアマルチプライアーをご存知だろうか? 先行発売中のデスクトップ型に加えて、今年の6月にはフロア型、タワー型が発表された。

羽と決別。扇風機の革命になるか? 気流を発生させて送風を行うダイソン・エアマルチプライヤー

 その佇まいは、私たちが長らくイメージしていた「扇風機」の姿を覆すものだ。円形のなかにはおなじみの羽はなく、腕を伸ばせば反対側に突き抜けてしまう。

 しかし、スィッチを入れると、その輪の正面から風が流れ、その風量は従来の扇風機に引けを取らない。上下角も調整できるし、首を左右に回しながら周囲に送風することも可能だ。

 英国の企業ダイソンは、扇風機から羽を捨て去り、新たな扇風機を再発明してしまったのだ。

 昨年、私が初めてエアマルチプライアーと対面したとき、これまでダイソンがつくってきた製品・つくらなかった製品~日本未発売や開発を中断したものものを含めて~を知っていたので、目の前の商品が"気流"を生み出す装置、つまり送風機かなにかであることを直感した。

最近、エアマルチプライアーのラインナップに加わったタワー型のAM02(左)とフロア型のAM03(右)

 しかし、それは気まぐれなプロトタイプかなにかで、まさか本気で発売しようと思っているとは考えていなかったのだが・・・。

 いま、そのときの製品と同じタイプのものが、私の横で風を送り出しているが、作動していないときには、知らない人はそれを役立たずのアート作品だと思うようだ。

 そして、それは羽のついた扇風機を追い出し、いつの間にか私の日常生活に溶け込んでしまっている。

 ここで、エアマルチプライアーの送風の原理を大雑把に説明してみよう。

 まず、同製品は大きく分けると円形の部分とその下の円筒状をした筐体(きょうたい)から成る。最初に筐体のなかに内蔵されたモーターによって、表面に空けられた無数の穴より空気が吸い込まれる。その後、吸気はモーターによって加速され、写真では見えないが上側の円形パーツの内側に1ミリほどの隙間があり、その隙間より吐き出されるのだ。

エアマルチプライヤーの強度テスト〔MOVIE〕小林弘人(以下同)

 そのときに空気は加速していて、今度は円形の内側の上にある微妙な傾斜の上を通過することで空気は円形の気流となる。

 そして、負圧による吸引力を発生させ、今度は円形パーツの背面や周囲の空気をも巻き込むかたちで、吸い込んだときの15倍の風量となって送風されるのだ。

 なぜ気流が周囲の空気を吸い込んだり、加速するのかは空力学(流体動学)の原理に依る。

 長らく技術革新のなかった掃除機という分野でダイソンが行ったことを考えると、あの古風な扇風機にも魔法がかけられ、文字通りプロペラの双発機からジェット機か、それ以上の何かに変貌を遂げたかのようだ。

 いずれこの輪こそが扇風機のスタンダードだと思えてくることがあるかもしれない。

 さて、ここで私には疑問がもちあがる。いったいぜんたい、なぜダイソンは日本企業が得意だった分野に次々と勝負を挑んでくるのか(挑んでいるかどうかはわからないが、そう見えても不思議ではない)。

 また、日本のメーカーは何をしているのかと。

 以前、ある雑誌が「なぜ日本企業がアップルのiPhoneやiPadを送り出せなかったのだろうか」という特集を組んでいたが、実は、コンピューティングや通信といった最先端の分野のみならず、ハードウェアだけの世界で、しかも日本企業の十八番であるシロモノ家電においても同種の事態が起きているのではないかということだ。

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