中国
エネルギー資源を求める中国海軍とアメリカが「日本近海」で激突するとき
人民解放軍を海軍中心に再編中

 8月1日、中国は人民解放軍建軍83周年を、全国7つの軍管区で盛大に祝った。北京軍管区では、150人以上の外国人記者を招待し、精鋭部隊の訓練風景を公開するサービスぶりだった。

 また、8月3日から7日まで、日本近海を担当する済南軍管区でも、戦闘機や偵察機などをフル稼働させ、1万2000人の兵士が参加して、異例の大規模演習を挙行した。

 最近の人民解放軍には、ある共通認識が漲っているという。それは、「わが軍はかつて(朝鮮戦争で)アメリカと戦争して負けなかった数少ない軍隊であり、アメリカに怯むなかれ!」ということだ。

 中国のマスコミにも、「打破囲堵中国的局面!」(中国包囲網を打ち破れ)といった見出しが、連日踊る。中国の外交関係者が解説する。

「アメリカは太平洋の西側の海域を、3つのラインで捉えている。すなわち第一ラインが、日本列島、韓国、沖縄、台湾、フィリピンを結ぶ線。第二ラインが、日本の小笠原諸島、硫黄列島、マリアナ群島を結ぶ線。そして第三ラインが、ハワイ諸島の経度にあたる線だ。
  アメリカ海軍第7艦隊は、第三ライン→第二ライン→第一ラインと迫っていき、関係各国に同意を強制して、中国包囲網を敷こうとしている。だが、中国の海は人民解放軍が守る。われわれは逆に、第一ライン→第二ライン→第三ラインと、アメリカを押し返すのだ」

 実際、「出る杭」(=中国海軍)は撃つ、という最近のアメリカの意図は、明快である。

 7月下旬、ヒラリー・クリントン国務長官は、ベトナムで開かれたARF(ASEAN地域フォーラム)閣僚会議に出席し、27ヵ国・国際機構の代表を前に、「中国の海の脅威」を訴え、これに対抗していく意志を明確に示した。

 また7月末には、アメリカ軍は同盟を結ぶ韓国軍と合同で、史上最大規模の軍事演習を、日本海海域で行った。「北朝鮮の脅威に対抗する」というのが表向きの理由だが、中国に対する威嚇が主目的であることは、一目瞭然だ。

 アメリカ軍は最近、ハワイやシンガポールでも軍事演習を立て続けに行い、今後は、中国のお膝元である東シナ海海域での米韓合同軍事演習も予定している。中国海軍の「勢力拡大」を、全力で阻止する構えなのだ。

 著名な国際政治学者ウォーラースタインの覇権国家論によれば、過去500年の世界史は、約100年毎に覇権国家と挑戦国家とが戦いを繰り広げてきた「覇権戦争の歴史」である。20世紀前半にイギリスから覇権を奪い、覇者となったアメリカは、20世紀後半に、軍事的にはソ連の、経済的には日本の挑戦を退けた。

 ところが21世紀に入って、新たに「アジアの昇竜」の挑戦を受けることになった。中国は今年、日本を抜いて世界第2の経済大国となり、軍事的にも、空母の建造を急ぐなど、海軍力の増強が甚だしい。ここで中国を叩いておかねば、取り返しのつかないことになるというわけだ。

 加えて、最近のアメリカ軍は、東アジア海域を、「中東への航行ルート」と捉えていることも、この地域に固執する大きな理由の一つだろう。ブッシュ前政権以降、アメリカの世界軍事戦略の中心は、中東地域(イラク、アフガン、イランなど)に移項しつつある。

 日本や韓国の米軍基地も、同盟国を防衛するというよりは、むしろ中東への拠点と考えている。その意味でも、東アジア海域は、死守せねばならない「生命線」なのである。

 アメリカが目指す「東アジア版NATO」の創設

一方、中国はこれまでトウ小平の「遺訓」で、「韜光養晦」(密かに能力を蓄える)という方針を貫いてきた。だが最近、胡錦濤政権は、230万人民解放軍の全面的な改革を進めている。

 それは一言で言えば、陸軍中心の軍隊から海軍中心の軍隊への転換である。

 これは主に、二つの理由による。第一に、中国4000年の歴史で初めて、周辺国家からの侵略の懸念が、ほぼなくなったことである。

 現在の中国は、2万2000㎞の陸の国境を、14の国と接している。ところが、中国は周辺のどの国よりも豊かになり、国境を確定したり、国境貿易が発展した結果、「陸の脅威」が大幅に緩和されたのである。あえて言うなら、北朝鮮国境だけが相変わらず"不穏"だが、これは北朝鮮崩壊→大量難民の発生という別の懸念だ。

 もう一つの理由は、エネルギー問題である。中国は、1993年からエネルギー輸入国に転じた。そしてこのところの急速な経済発展に伴い、エネルギーの確保が、国の死活問題となってきている。

 例えば、今年上半期の電力消費量は、前年同期比で、21.57%もアップした。いまのところまだ日本ほど、エネルギーの中東依存率は高くないが、日本と同様に、マラッカ海峡から東シナ海に至る海域が、「生命線」となりつつあるのだ。

 これに加えて、「屈辱の100年」(1840年のアヘン戦争から1949年の祖国解放までの半植民地時代)に対する欧米列強への恨みが、国民感情として存在する。このことも、アメリカに対するイライラ感を増幅させる副因となっている。

 ともあれ、「日本近海」でもあるこの海域が、米中2大国の互いの「生命線」が衝突する、極めて危険な一帯となりつつあることは確かである。

 この先アメリカは、いまの日米同盟及び米韓同盟を押し広げる形で、「アジア版NATO」(アジア版の北大西洋条約機構)の設立を目指すであろうことは目に見えている。7月20日にベトナムで開かれたASEAN外相会談で、東アジアサミットへの加入を認めさせたのは、その第一歩である。

 当然ながら、アジア版NATOに、日本は組み込まれることになる。ところが日本にとって、経済的に死活的に重要になってきているのは、アメリカ軍が「仮想敵国」とする中国の方である。

 「米中海軍激突」の渦中で、「日本漂流」が始まる――。

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