「僕には『引き際の美学』なんて関係ない」
16年ぶりに古巣・西武に復帰、
29年目のシーズンを前に46歳のエースが語った
工藤公康は、ゆっくりとしたフォームで、およそ30m先のネットに向けピッチング練習を繰り返した〔PHOTO〕吉田暁史

 '09年のクリスマスイブ。3シーズン所属した横浜ベイスターズの二軍練習場に姿を現した工藤公康(46)は、誰もいないグラウンドをひた走り、ネットに向かって140球もの遠投を行っていた。

 2月のキャンプインまで日はあるが、現役最年長投手の額には玉のような汗が浮かぶ。アンダーシャツには長年親しんだ背番号「47」の数字が、真新しいジャージーにはきたるシーズンに埼玉西武ライオンズで背負う「55」の数字が縫われていた。腰を屈めて140球すべてを一人で拾い終えると、彼は笑いながら、おどけるように身体をクネらせて言った。

 「あ~、ケツいてぇ~! もうオッサンですよ。正直ね、自主トレするにしてもしんどくて家から出たくない日もある。でも、勝手に足が向いちゃうんだよね。2~3年ぐらい前からかな、ようやく野球をやるのが楽しくなった。マウンドの緊張感もいいけど、そこに到るまでの過程が何より楽しい」

 かつてのように銀座や六本木で痛飲することはなくなった。大の愛煙家で知られていたが、体調を危惧する義母との約束でタバコも現在は止めている。徹底した節制生活を送り、身体のケアも怠らない。昨シーズンは中継ぎとして46試合に登板。意外にも俊足の工藤は、現在でも50m走は6秒を切るという。

投げ込んだ後、片付けまですべて自分で行う。休みなし。汗だくになり、時折苦しそうな声をあげていた〔PHOTO〕吉田暁史

 「オフはどうしても顔がダラーってして、お尻も垂れてしまう。すると母ちゃん(妻・雅子さん)がケツを叩いて、やる気モードに戻してくれるんですよ」

 米国・アリゾナで自主トレを行っていた時期もあったが「ご存じの通り、年々、年俸が下がっていますから(笑)」と、プライドをかなぐり捨て、クビになった球団の施設を利用している。通算224勝の大投手でも、テレビ番組の収録時などはICカードを使って電車で移動する。

 「あったり前じゃないですか。僕も子供たちが大きくなっていろいろお金がかかるけど、テレビ局も経費節減で大変なんでしょ。車を用意してもらうわけにはいかない。Suicaにいくらチャージされているかも頭に入っていますよ」