いまだトヨタを蝕む「北米バブル」の後遺症
回復基調もホンダ、日産には見劣り

 トヨタ自動車は4日、2011年3月期の第一四半期決算(2010年4-同6月)を発表した。

 売上高は前年同期比27%増の4兆8718億円、本業の儲けを示す営業損益は1949億円の赤字から2116億円の黒字に転換した。エコカーへの補助金・減税の影響で国内販売台数が伸びたほか、北米での販売が36%伸びて回復したことやタイやインドネシアでの販売増が業績回復に貢献したことなどが黒字化の要因だ。

 トヨタの業績は一見順調に回復しているように見えるが、まだ厳しい局面にある。それは、利益の内訳や通期の見通しを見れば一目瞭然であるし、ホンダや日産自動車との比較でもかなり見劣りする部分がある。

 まず、第一四半期の営業利益2116億円の中には、車を造って儲けた利益以外に約500億円の引当金の戻し分が入っている。この引当金とは、自動車ローンなど金融事業での貸し倒れ引当金を前期に多めに積んでいたものが戻ってきたものだ。2116億円から500億円を引けば1616億円となる。

 第一四半期決算でのホンダの売上高は17.9%増の2兆3614億円で、営業利益は9・3倍の2344億円。日産の場合、売上高が35・3%増の2兆501億円、営業利益が14・4倍の1679億円だった。1616億円という数字は、この3社の中で一番少ない。

 ホンダや日産が増収増益となった理由は、トヨタと同様に北米市場が回復したことやアジアでの事業が拡大したからだ。しかし、トヨタはこの2社に勢いで負けている。営業利益を売上高で割る営業利益率は、トヨタは4・3%、ホンダは9・9%、日産は8・2%となる。率でもホンダや日産に大きく遅れを取っている。

 通期の見通しでもトヨタはかなり厳しい。売上高は19兆5000億円(今年5月に発表した見通しに3000億円プラス)、営業利益は3300億円(同500億円のプラス)と、期初予想よりも上方修正しているが、営業利益は残り9カ月間でわずか1184億円しか増えない。単純に4倍とはいかないまでも、トヨタの実力が本当に回復しているのなら8000億円近い利益が出てもおかしくない。営業利益率もわずか1・7%だ。こんな利益水準では為替の変動で吹き飛んでしまう。

 しかもこの見通しは、1ドル=90円を前提にして予想を立てている。4日時点で1ドル=86円と、すでに前提条件よりも4円の円高が進行。トヨタは1円の円高で営業利益が350億円減少するため、すでに1400億円の減益要因が発生していることになる。
ホンダの通期見通しは、売上高が9兆1000億円(期初予想よりも2400億円マイナス)、営業利益は4500億円(同500億円プラス)で営業利益率は5%。ホンダは下半期の為替レートを1ドル=85円と見積もっている。日産は売上高が8兆2000億円(期初予想から変更なし)、営業利益が3500億円(同)を見込む。営業利益率は4・3%。日産の場合、為替の予想はトヨタと同様に1ドル=90円。通期見通しでもトヨタはホンダと日産に負けているのだ。

 収益性でトヨタが両社に負けている理由は、国内事業と北米事業でトヨタが低収益に喘いでいるからだ。

 国内の売上高と営業利益を比較すると、トヨタの売上高は2兆8066億円、営業利益は274億円で、営業利益率は約1%。ホンダは売上高が9260億円、営業利益が532億円で、営業利益率は5・7%。日産は売上高が1兆431億円、営業利益が433億円で、営業利益率は4・2%。

 北米事業では、トヨタは1兆4836億円の売上高に対して1097億円の営業利益で、営業利益率は7・4%。国内よりは利益率は高いが、ホンダは1兆1378億円の売上高に対して1107億円の営業利益で、営業利益率は9・7%。日産も7749億円の売上高に対して668億円の営業利益で、営業利益率は8・6%となっている。

 リーマンショック以前は、トヨタは米国では利益率の高い大型・高級車で稼いでいた。「カムリ」や「カローラ」といった高品質な小型セダンを中心に稼ぐパターンから、日本では売られていない大型ピックアップトラック「タンドラ」などをアメリカで生産したり、「レクサス」を日本から輸出したりするビジネスでぼろ儲けしていた。

格付けの高さを活用して市場から低コストで資金を調達し、その資金をリース販売の原資に充て、低所得者でも高級車をお手軽に買える売り方だった。GMなども同様の収益構造であり、金融技術で車を増販していたのだ。低所得者に住宅を売っていた「サブプライムローン」と発想は同じである。

 ところが、一気に不景気になり、高級車が売れなくなると、その反動は大きかった。ご承知のようにGMは倒産してしまった。トヨタも大型・高級車で稼ぐ体質になっていたため、原価構造が高くなった。いわば身の丈を超えた経営だった。トヨタの決算がまだ本調子でないのは、この北米バブルの「後遺症」が残っているからなのだ。

「良品廉価」で糖尿病から立ち直れるか

 ホンダも北米市場で稼ぐ構図に変りはなかったので、一時的に収益は落ち込んだが、「シビック」や「アコード」などで稼ぐという基本姿勢を変えていなかったので、傷は浅く、復活は早かった。軸がぶれていなかったというわけだ。日産はトヨタと同様に大型ピックアップで儲ける路線を強いていたが、ゴーン社長が猛スピードで軌道修正し、北米での大型車の生産をいち早く中止した。ゴーン氏の意思決定の早さが早期復活につながった。

 ホンダや日産は「インフルエンザ」程度の治療で済み、一過性のものだったが、トヨタの「後遺症」は、人間の病にたとえるなら「糖尿病」に近い。

 不摂生な生活をし、身体が蝕まれているのだが、なかなか自覚症状が出ない。「糖尿病」を治癒していくには、まずは地道に有酸素運動や筋肉トレーニングをして身体を筋肉質にしてカロリー消化しやすい体質に改善することが必要だ。これで駄目なら、薬を飲んだり、インシュリンを打ったりしなければならない。放置しておくと、人工透析になったり、失明したりする怖い病気だ。GMの場合はずっと治療がせずに放置し、倒産という「死」に至った。

 トヨタはいま、必死に運動や食事制限をして体質改善を行っているが、筆者の見立てでも、病状がかなり進行し、「投薬」が必要な時期に来ている可能性がある。日本経済を引っ張ってきた大黒柱だけに、運動と食事制限で健康体に戻って欲しいとの気持ちもあるが・・・・。

 その「主治医」が昨年社長に就いた豊田章男氏だ。章男氏は盛んに「良品廉価」という「治療薬」を使っているが、患者の身体がでかすぎて、まだその「薬効」が現れていない。社内の一部には「糖尿病」だと信じたくない人もいるようだ。

 「良品廉価」とは、バブルな車造りから脱却し、それぞれの地域でお客が求めやすい価格で良い車を提供するという意味である。

 今後、大衆に車が普及し、市場の伸びが期待できる中国やインド、東南アジアで事業を拡大しようと思えば、日本円で60―70万円程度の安い車が必要となってくる。すでに日産は中国で7万元(約91万円)の「マーチ」を投入することを決めている。中国の日本車では最も安い価格帯だ。

 「糖尿病」のままではトヨタは新たな主戦場で戦うことができない。この決算を取材して率直に感じた印象だ。
 

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