日経ビジネス「富士通お家騒動の真相」が触れなかった事件の核心部分

捜査当局も関心


なんとも“後味”が悪い記事だった。

経済誌『日経ビジネス』(7月19日号)が、「富士通お家騒動の真相」と題して、野副州旦元社長の辞任劇を追った10ページの大特集である。

今年3月に騒動が表面化してから、「首切り役」となった秋草直之相談役や野副氏を社長に抜擢した黒川博昭相談役ら、富士通幹部はこれまで口を開くことはなかった。今回、その秋草氏、黒川氏のふたりがインタビューに登場している。そういう意味ではニュース性はあるのだろう。

しかし、肝心の野副氏は「取材に応じてもらえなかった」の一言で片づけられて、登場していない。結果として記事は、「反社会的勢力(反社)に取り込まれた野副氏を追放せざるを得なかった」という秋草氏らの“苦渋の選択”を擁護する内容に終始している。

「僕は悪者になる覚悟をした」

秋草氏インタビューのこの「見出し」が、それを象徴している。

取締役会に諮らずに代表取締役を解任、その理由を株主にも投資家にも知らせず、「病気療養」と、ウソのIR(投資家向け広報)をした問題については、富士通側の釈明に沿っている。コーポレートガバナンスについても、小さな囲み記事で申し訳のように指摘するだけだ。一方で今回の騒動で浮上した不可解なカネの流れや、「反社」と断定したサンドリンガムファンドから名誉毀損訴訟を起こされている問題など、富士通にとって都合の悪いことにはほとんど触れていない。

例えば、サンドリンガムキャピタルパートナーズリミテッドの房広治氏と、その子会社のサンドリンガム・プライベートバリューの鳥井洋一氏を「反社」と決めつける富士通の論理に乗って、野副氏の馘首を当然とする視点に立っている。

私は、この問題が表面化した直後、本誌(3月18日付)で、「富士通内紛で『反社会的勢力』にされたファンドの虚実」という記事を書いた。サンドリンガムファンドに絡む面々が、クレディスイスファーストボストン証券に籍を置いていたことがあり、際どい資金調達やM&Aなどに絡んだ過去はあるものの、「反社」ではなく、その利益至上主義は「ファンドの宿命」だと指摘した。

その考えは、5カ月を経た今も変わってない。「反社」と決めつけられて多大な損害を被ったとして、ファンド側は富士通に対し3億3000万円の訴訟を起こしている。ファンドの代理人弁護士は「負ける要素は見当たらない」と、豪語する。

「反社」の認定がどれほど難しいかは、経済事件を少しでも扱った記者なら分かるはずだ。暴対法の施行以降、経済ヤクザは構成員、準構成員となることを避けるようになり、「共生者」と呼ばれる暴力団周辺者が多くなった。

暴力団とは過去も現在も関係なく、ビジネスは元構成員らで構成するフロント企業(企業舎弟)と行う。この「共生者」を「反社」と認定できるのは、認定作業にあたる都道府県警の組織犯罪対策部門だけ。彼らは膨大な手間暇をかけたチェック作業(暴力団事務所やフロント企業への出入り)でそれを行っている。しかし、それを承知の「反社」は、巧みにすり抜けているのが現実だ。


顧客にそうした「共生者」が含まれているからサンドリンガムが「反社」だというのならば、投資資金を預かるファンド、資金調活に関わるファンドでは「反社」は限りなく存在する。

この現実を思えば、「反社」の認定を理由にした野副氏の馘首には、いかにも無理がある。むしろ「反社」とのつきあいは、馘首の理由付けにされた印象が強い。

「野副排除」の工作資金はどこから出たのか


実は、日経ビジネスの記事ではまったく触れていないが、今回の事件には捜査当局も関心を寄せている。その背後には、代表取締役社長という経営トップの首切りの裏側に、不可解なカネの流れがある。

富士通の社内弁護士である役員には、巨額のカネが役員報酬とは別に流れており、それが「野副排除」の工作資金であった疑いが浮上している。

また野副氏には、退任の条件として「年間2700万円を10年間保証する」という“約束”が提示された。野副氏はこれを「口止め料」と称したが、取締役会を経ずに、そうした約束事がなぜなされるのか。あるいは、病気でもない野副氏を2カ月間も「偽装入院」させていたのだが、その費用はどんな名目で捻出されたのか。

売上高5兆円、従業員数17万人の大企業の“奥の院”で起きたコンプライアンスとガバナンスなき経営に、東京地検特捜部が並々ならぬ関心を寄せているのだ。今後、大型経済事件に発展する可能性もくすぶっている。

つまり富士通経営陣は、いつ引火するかも分からない「野副爆弾」を抱え込んでしまっているのだ。日経ビジネスの記事は、こうした事件の「真相」に迫っているとは、とてもいえない。

そんな疑問が拭えぬまま約2週間が経過した7月28日、日経本紙を読んでいると鼻白む思いがした。富士通のカラー全面広告が掲載されていたのである。

日経新聞ホームページの広告料金早見表では2040万円プラスカラー料金の490万円で2530万円となる。

「夢を形に」という企業理念や「shaping tomorrow with you」というブランドプロミスが散りばめられ、山本正巳社長が「『お客様のお客様』まで見つめながら、チャレンジし続ける富士通に、どうぞご期待ください」と、メッセージを残している。要はイメージ広告だ。「野副問題」で痛んだブランドイメージを改善しようということだろう。

もちろん、日経ビジネス編集部は100%出資の子会社とはいえ、日経新聞とは別会社である。編集権も独立していよう。富士通寄りの記事が、広告営業に直結しているというつもりはない。しかし、はたしてジャーナリズムとしては、いかがなものか。

日経グループは、官僚支配や株式持ち合いによる「もたれ合い」を批判、公平で透明な企業環境を確立することで、グローバル化に立ち向かう力強さを企業に要求してきた。 残念ながら、「富士通お家騒動の真相」には、その原理原則が見当たらなかった。






 

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