休日の学校を英語教室に開放する京都企業のチャレンジ

教育改革に挑む中小企業

 京都府宇治市に「ジャパンリード」という中小企業がある。従業員は5人。かつては大手家電メーカー向けなどの電子部品を生産する下請け企業だったが、2001年に教育事業に新規参入し、今では売上の8割が教育事業になった。社名も日本リード線工業から教育事業への新規参入と同時期に現在のものに変えた。

 社長は安本真樹さん(46)。高校・大学は海外に留学し、東京で有名ブランドのデザイナーをしていたが、父が創業した家業を継いだ。

「教育のプロではありませんが、4人の子どもを育てており、親のプロだと自負しています。親の視点を入れた教育事業をしていきたい」と安本さんは話す。

 従来、教育とは「与える(Given)」だったものを、親として与えたい教育・子どもとして受けたい「分かち合う(Share)」教育を提案する。

 教育事業の中心は、学校支援ビジネス。たとえば、休日に私立の中学校の遊休施設を活用し、近隣小学生を対象に有料の英語教室を開く。主催者は学校で、企画・運営はジャパンリードが行う。ネイティブスピーカーの講師はジャパンリードが派遣する。ジャパンリードは学校側に施設利用費や光熱費などの使用料を払う。

 学校側は、近隣住民にとっては近くて遠い存在である私立学校を地域貢献として開放し、もっと多くの人に自校を知ってもらいたいと考える。これが将来の生徒獲得にもつながるからだ。こうしたニーズを、安本さんはビジネスに結びつけた。

 一見、何の変哲もない「休日学校」のように見えるが、実現するまでは大変だった。学校法人法上は遊休施設を活用しての収益事業は「グレーゾーン」だったからだ。このため、当初、監督行政はOKを出さなかった。

 安本さんはあきらめなかった。遊休施設活用のビジネスモデルを、経済産業省管轄の「経営革新支援法」に認定されるように申請し、6年前に見事認定された。この結果、京都府知事の認可で実行可能となった。

「行政の教育予算削減や経済不況による個人世帯の教育費支出の抑制、公立高校の無償化に加え、国公立の中高一貫や進学校化の拡大の中、私学の生き残りをかけた改革や学校の特徴を前面に出した学校ブランド化は加速する」と安本さんは説明する。

 こうした戦略立案もビジネスにしており、今では関西の多くの私学と付き合いがある。

 このほかにも、海外の教材メーカーや国内の出版社と提携し、学校向け英語教材の開発にも力を入れるほか、様々な企業の教育コンサルティングも行っている。本社の一角は塾になっている。進学塾ではなく、社会実践型教育として英語やパソコンを駆使し、表現力や自分で考える力、行動力を養う教育をしている。

 今後、企業内で英語を「公用語」化する動きが強まっている影響で、就職支援のために大学が実践的な英語教育の強化を打ち出している。安本さんは「今までのノウハウを活用し、この支援もビジネスに取り込んで行きたい」と話す。

 安本さんはこうも語る。

「子どもたちが耳にするのは社会情勢不安や将来の負担増などマイナスなイメージばかりの情報です。生まれながら望みもしない重荷を背負っている状況の中、私たち大人が与えられるのは自らの力で未来を変えることができる力、すなわち教育だと思います。
  教育という大きな大海に小さな石を投げ続けている私たちは近い将来、この波紋が小波となり、そして大波を呼び寄せ、教育全体が変わることを願っています」

 教育はサービス産業である、と指摘すると、反発する先生が多い。特に大学教員の中には「我々は研究者であって、教育労働者ではない」「教育に市場原理を働かせるとは何事だ」と反発を食らうこともある。

「学校は先生のためでなく、生徒のためにある」

 教育は無形の「社会的共通資本」である。水道や道路なども社会的共通資本だが、日本では、この社会的共通資本は「官」が独占する傾向にある。小泉改革で、官の独占に風穴を開けようとしたが、中途半端に終ってしまった。そして昨年、民主党政権が誕生して「ばらまき」が始まり、何でも「官」に頼る風潮に逆戻りした。

 「社会的共通資本」は、志が高く、知見と規律を持ち合わせた組織・人が担うべきものであり、「官」が独占するものではない。もちろん市場(利用者)からの規律も必要だ。就任当初、輝いていた頃の英国のブレア首相は「病院は医者のためにあるのではなく患者のためにある。学校は先生のためにあるのではなく、生徒のためにある」
  演説した。

 最後に安本さんは「私学を対象に事業を始めましたが、最終目的は公立学校改革への参画です。格差社会になって、貧富の差が拡大した状況の中から、平等に良質の教育がすべての人に与えられることを望んでいます」と語る。

 無名で小さな会社ではあるが、安本さんの活動は、社会的共通資本を担うという民の意気込みを感じた。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら