事業者寄り発言の目立つ原口大臣の「資質」
今度はNTTにも飴?

「NTTの規制、あれは本来、20年以上前の改革の際に自由にしておくべきだったものだ。長い期間が経ったのに、政府が株を持ち、総務省が人事や事業計画について承認権限を持つのは決して良い形ではない。『完全民営化』が大事だと考えており、その議論を加速させていきたい」――。

 原口一博総務大臣は7月27日、閣議後の記者会見で、前週末に横浜市内で開かれた集会でしたのと同じ趣旨の発言を繰り返し、足元の総務省と電気通信業界から失笑を買った。

 「ソフトバンク寄りだった路線を再び、NTT寄りに戻す予兆ではないか」というのだ。

  原口大臣の発言は、NTTが大臣のご執心の政策「光の道」構想に協力して、歴史的な業績となる「光の道」普及や「光の道」3法の制定を成し遂げることができれば、同社にも相応のアメを与える用意があるとの呼びかけと受け止められた。

  もちろん、原口大臣の心中は定かではない。原口大臣がそのような個人的な業績に執着する政治家とも思えない。

  しかし、世界的な景気回復に支えられて、このところ業績が絶好調であるにも関わらず、企業は一向に労働分配率を見直す気配がない。庶民・消費者は、歴史的な高失業率と相変わらずの低賃金に喘いでいるのだ。

 そうした視点からみれば、通信料金の高止まりには許容しがたいものがある。原口大臣の発言が、通信事業者偏重と見なされるリスクも決して小さくない。

  むしろ、原口大臣に期待されているのは、過去数年、これといったニューカマーの参入がなく、澱みがちな通信業界のムードを一新することではないだろうか。

  今一度、電気通信市場への新規参入を促進し、市場競争を活発にし、消費者利益を増進することこそ期待されている。

  換言すれば、政府のお墨付きを得て占有した周波数ビジネスと端末機器などとのバンドル商売に胡坐をかく携帯電話業界に体質・戦略の転換を迫り、より高度で多様なサービスの導入と、料金の低廉化を進めさせることこそ、政治家として期待される使命である。

  最初に原口大臣が発言した横浜の集会は、地方自治政策を論ずるためのものだったという。しかし、この席で、原口大臣は、クセ球の質問にさらされた。孫正義氏が率いるソフトバンクの存在を言外に匂わせつつ、「特定の通信事業者と親密で、総務大臣として特定の事業者寄りの政策を採っているのか」と問い詰められたのである。

  過去数ヵ月の原口大臣の言動を冷静に振り返ってみれば、こうした質問が出たこと自体は不思議のないことかもしれない。

  原口大臣は09年秋、自身の肝煎りで設置した「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」で、2015年までに光ファイバー網を国内の全世帯で利用する状況を構築する「光の道」構想の検討を進めてきた。その過程で、第3部会の構成員の一人である孫氏との蜜月ぶりが突出していたからだ。

  例えば、原口大臣は、孫社長の意向を尊重し、5月半ばに第1、第2部会の合同部会がとりまとめた中間報告の結論を、いとも簡単に覆している。

大臣の意向で覆ったスケジュール

 NTTが光ファイバー網の開放に消極的で、期限内の「光の道」構想の達成が困難と考えられる事態が起きた際にはペナルティ的に行うとした、NTTのアクセス網部門の分離・別会社化の実施の是非を判断する基準作りの期限や、判断を行う時期の問題だ。

  合同部会では、そもそも、そういうペナルティ的なものへの消極的な意見が多かった。仮に必要だとしても基準構築や判断時期までには「3年程度の時間が必要だ」といった声も少なくなかった。

  しかし、「光に道」構想の実現に情熱を燃やす原口大臣の意向を勘案して、事務局や第1部会の構成員である筆者が早期の基準構築や判断の必要性を主張し、なんとか「1年」とする中間報告をまとめた経緯があった。

  この調整はギリギリまでずれ込み、取りまとめ期限とされていた、5月14日の金曜日夕刻の合同部会の場まで中間報告書の文言修正がずれ込むほどの綱渡りだった。

  ところが、週明けの同17日(月曜日)午前の第3部会で、孫氏がこの問題に不満を表明した。

「のんびりしている場合ではない。第1、第2部会のほうで光の道構想の行動スケジュール案等が出されておりますが、これらを1年ゆっくりかけて議論するというのではなくて、やはり半年ぐらいで行動計画を取りまとめて、いち早く実現させねばならないと思います」と主張したのだ。

  この背景には、iPad、iPhoneなどの急増で膨張する無線のトラフィックを、NTTグループの固定網に肩代わりさせたいとの意向があるとみられる。

  そして、翌18日に開かれた、タスクフォースの親会と呼ぶべき「政策決定プラットフォーム」の場で、原口大臣は迷うことなく、孫提案を採用した。

  冒頭の挨拶で、「光の道に向かって、NTTの経営形態も含んでございますけれども、年内には一定の結論を」と審議日程の短縮を指示したのである。

  蜜月ぶりを伺わせたのは、それだけではない。1、2部会の合同部会が今春、電気通信事業者各社をヒアリングした際、タスクフォースにめったに顔を出すことのない原口大臣が多忙なスケジュールを遣り繰りして、孫氏の意見陳述を聞くために、部分的に合同部会に出席して周囲を驚かせたこともある。

  また、2人は、流行りのツイッタ―でエールを交換し合うことが珍しくなかった。個人的な勉強会も数回に及んだとされ、会合場所も含めて、所管大臣と事業者の関係として適切な関係と断言できるかどうかを疑問視する声すら出たほどだったのだ。

  横浜の集会で原口大臣に意地悪な質問が投げかけられた背景には、こうした孫氏との関係が取り沙汰されていた問題がある。

  ただ、注目すべきは、原口大臣が横浜の集会で、ソフトバンクだけをエコひいきしているわけではなく他の事業者のことにも配意しているとの文脈で、冒頭のNTTに対する措置・構想を語ったとされている点である。

  突然の意地の悪い質問が想定外だったとしても、他の事業者のことも重視しているとの趣旨の発言は、あまり当を得た議論とは言いにくい。

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