菅直人政権はまったく手詰まりだ。外交面では、8月末までに日米政府で合意するはずだった普天間基地の移設先確定などが11月の沖縄県知事選以降に先送りされるようだ。
内政でも、首相官邸は予算で苦しんでいる。借金返済などを除く予算を上限71兆円と設定し、各省に一律1割削減を指示したが、閣内や党から異論が相次いでいる。
公共事業はもうカットしないと宣言している前原誠司国交相、文教予算のカットを認めない輿石東参院議員会長、交付税増額を要求する原口一博総務大臣、忘れてはいけない「ばらまき推進」の小沢一派などなどがいる中で、菅政権はダッチロール状態だ。
そこに追い打ちをかけるのが、亀井静香国民新党代表である。7月25日夜、菅総理と会談した亀井代表は経済対策の必要性を訴え、財源として、利子が付かない代わりに相続税がかからない「無利子非課税国債」の導入を菅総理に進言した。
一般に他党と相談する場合は先に自分の党内を固めておくものだが、民主党内には経済・財政についての基本理念がないから、亀井代表に言われっぱなしだったに違いない。実際、亀井提案に対して菅総理は「勉強する」と答えたという。
この「勉強」は、菅総理自らがするわけではないので(できないし)、財務省に頼むことになる。参院選惨敗の原因となった消費税増税を吹き込んだ、あの財務省にまたもや縋(すが)るのだ。だが、それではあまりに心許ないので、代わりに私がその導入の是非をお答えしよう。
一言でいえば、この無利子非課税国債は、相続税納税者のためだけのものであり、不公平になるばかりか、財政再建にならない。
相続税のかかる死亡者は年間およそ4万8000人で、全死亡者の約4・2%。その相続税額は1兆2000億円ほどになる。その相続税納税対象者は、どんな条件ならこの国債を購入するだろうか。相続税納税対象者は、受け取れない利子よりも支払わずに済む相続税のほうが大きければ、この国債に魅力を感じるだろう。
つまり、政府から見ると、減収する相続税の総額は、支払わずに済む利子額より大きいということだ。従って、この国債を発行すると財政収支は悪化する。
この無利子非課税国債のアイディアは、大金持ちの相続税納税者に対して営業活動を行っている金融マンから生まれたようだ。勝ち組は、この新型国債を売って手数料を稼ぐ金融マンと相続税納税者であり、負け組は一般国民だ。
こんな見かけ倒しのアイディアより、もっとまともなものがある。日銀は現在、市中に出回っている国債の買い入れを行っているが、それだけでなく、国債を発行元の政府から直接引き受けるのだ。
日銀の国債直接引受は財政法によって禁止されているとの反論があるが、その条文の但し書きには「特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない」と書いてある。
国債を日銀が引き受けるとどうなるか。日銀に支払われた利子は日銀から政府への納付金として政府に戻ってくるので、無利子非課税国債と異なり財政収支は悪化しない。かつて戦前の大恐慌の際に、高橋是清大蔵大臣がこの施策を断行し、日本を危機から救った伝説の経済対策だ。今の菅政権で行えば、歴史的な英断となるだろう。
消費税増税の前にやるべきことはいくらでもある。デフレ退治もその最優先課題だ。決断を期待したい。
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