日本はもちろん、世界に多くのファンを持つ宮崎駿。監督を弟子に任せ、脚本を担当した『借りぐらしのアリエッティ』も大ヒット中だ。彼は作品をどう作り、どんなメッセージを込めているのか。
均質化する社会への違和感
前売り券予約数はジブリ作品史上最高、公開3日で興行収入13億円を突破したジブリの新作映画『借りぐらしのアリエッティ』(7月17日公開)。この作品で監督を務めたのは弟子の米林宏昌氏だが、宮崎駿(69歳)が築きあげた"ジブリブランド"はいまや不動のものとなった。村上春樹と並び、日本中が新作を渇望する作家の一人だろう。
物語は、身長わずか10cmの小人・アリエッティとその両親の一家3人が、人間が住む家の床下で生活用品をこっそり借りて暮らす。彼らの掟は決して人間に見られてはいけないということ。しかし、アリエッティはその家に住む少年・翔に自分の姿を見られてしまって-という展開だ。
日常世界のすぐ隣に、子どもや老人など純真な人にしか見えない豊かな世界が広がっているという設定は、ジブリ作品独特のものだ。
明治学院大学社会学部教授の社会学者・稲葉振一郎氏が話す。
「主人公である小人と人間の、両方の視点からストーリーが組み立てられています。これまでの宮崎作品のなかで、二つの視点から描かれていたものは、今回が初めて。
現実と異世界を行き来するという点では、『となりのトトロ』('88年)もそうでしたが、今回は明確に二つの現実の世界を描いているところに新しさを感じました。"小人モノ"特有の視点で日常的な風景を大きくする趣向は、アニメーションや特撮の分野では伝統的。それをジブリの技術とセンスで描きあげた作品です」
ジブリ作品は常に子どもの純粋な感動や驚きを大事にし、作品に魅了された子どもたちは成人してもなお、ファンであり続ける。
NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』で宮崎監督を取材した脳科学者・茂木健一郎氏が当時の様子を振り返る。
「宮崎アニメは本当に子どもに愛されています。子どもは好き嫌いについてウソをつきませんから。
取材の際、宮崎さんがこんな話をしてくれました。ある時、友人の子どもがスタジオジブリに遊びに来て、帰りに車で駅まで送ってあげた。車のサンルーフを開けてあげたいと思っていたけど、小雨が降っていたので子どもが濡れてしまう可能性があった。
結局、ルーフを開けずに駅まで行ってしまい、戻ってきてからすごく後悔したそうです。子どもというのは次に会ったときは全然違う子どもになっている。大人は次の機会にと思うけど、子どもにとって機会はその一度しかない。
『宮崎さんは童心を忘れない』とよく言われます。しかし、同時にいまの社会の矛盾や暗部についての深い洞察がある。それをあえて作品に注ぎ込む。結局、作家は自分の作品がすべてです。宮崎さん自身は作品について語ろうとせず、作品を見てくださいというスタンスを貫かれている。作家魂を強く感じました」
いまでこそ国民的な支持を得るジブリ作品だが、これまでの道は平坦ではなかった。
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