vol.3 「それは、理想国家だったか? 満州国を思い、大連の街を歩く」はこちらをご覧ください。
大連駅の正面、右手の方に自動車は停まった。
駅正面の人混みに恐怖を感じていたのだが、そちらの入り口にはほとんど人影がなかった。
「特別待合室」と記された額が掲げられた部屋は、天井の高さが四メートルほどもある巨きさであったが、私と文藝春秋『諸君!』のI氏と、ガイドの孝さんしかいなかった。
この部屋から、直接ホームに出ると「軟座」の列車が待っている。「軟座」とは、日本で云えばグリーン車である。
重油の臭いを振りまきながら、巨大なディーゼル機関車が入線してくる。機関車と客車は、緑色に塗られ、車窓の下辺りにクリーム色のストライプが走っている。
一両ずつ乗車口に女性の車掌さんが立っている。制服は、ほぼ、人民服と同じデザインである。
座席は、事前指定ではない。乗り込む時に彼女たちが国旗を象ったバッジのようなものを人数分渡してくれる、という仕組みである。
発車してしばらくすると、車掌さんが大きな薬罐をさげて歩いてくる。
乗客たちは、蓋付きの湯飲みをさしだして、湯を注いで貰う。
窓側の小卓に、向日葵の種や、鶏の足などをだして、談笑している。なんだか楽しそうだ。
金州辺りまでは、林檎の木がなだらかな丘を覆っている。
張作霖・学良邸奉天(現・瀋陽)に遺る。この自宅の応接間で、張学良による楊宇霆らの粛清が行われたそれを越えると、全く舗装のない土の道が、線路と並行して走っている。
特急電車が通過する駅には、ホームに駅員が整列している。
市街を離れると、看板や立札などを見ることがない。
まったく文字の、情報のない風景。
土や木や草と、素手で対峙している国の、人々の事を考えた。みずからの思慮の範囲を超えていることが、時間を経ることなく識った。
鞍山を過ぎると線路脇にポプラ並木が続く。コウノトリの巣が、一つ、二つ・・・。
「あと十年間、この発展が続けば、中国の貧乏時代は終わります」
孝さんは問わず語りに述べた。
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