「節電のお願い」という名の恫喝に屈するな
原発運転再開には「原子力サンダーバード」で万全の安全を

浜岡原発〔PHOTO〕gettyimages

 電力不足に備えた大幅な節電という苦難を企業や庶民に押し付けるのか、それとも、その苦難の回避のために、各地の県知事が原子力発電所の運転再開に同意するのか---。

 政府と電力会社が2人3脚で各地の県知事に対して、定期検査で運転休止中の原発(全国の54基中35基)の運転再開を迫り始めた。

 「政府、電力会社」連合は、事態がここに至った責任が県知事にあると言わんばかり。情けないことに、地元住民の安全確保に頭を悩ます県知事たちに責任を転嫁して威圧しているようにしか聞こえない。

 なりふり構わぬ態度には、問題をこじらせた本当の理由が、菅直人首相の浜岡原発の運転停止要請という政治的パフォーマンスにあったことを糊塗しようという意図があるようにさえ映る。

 しかし、今、われわれ日本国民に必要なのは、そんな醜く姑息な議論ではない。当面の原発の運転再開に、誰もが同意できるような万全の安全対策が求められているのだ。

 そこで、筆者は、いざという時、ただちに出動できる"原子力サンダーバード"(緊急援助隊)の創設を提案したい。自衛隊、消防庁、警察庁、地元自治体、電力会社から成るチームを編成しておき、専門知識や特殊技術を持つ人員と必要な機材を配備、日頃から訓練を行い、想定を超えた事故が発生しても、メルトダウンや水素爆発を抑え込み被害を最小限にとどめる体制を作るのだ。

 ご存知の方も多いと思うが、サンダーバードのオリジナルは、イギリスのテレビで1965年に放映された人形劇にある。世界の人々のピンチを救うための活動を繰り広げる国際緊急救助隊である。

 舞台は西暦2065年。人類は、科学技術を飛躍的に発展させて、夢のような世界を築き上げたが、その科学技術は危険と隣り合わせだ。ひとたび事故が起きれば、大惨事に繋がりかねない。そのリスクを認知した米国の大富豪が、私的な組織としてレスキュー部隊を設立するというものである。

 もちろん、主たる任務は人命救助だ。南太平洋上の絶海の孤島に秘密基地を持ち、毎回、最新鋭の機器を駆使して、災害や事故、犯罪などによって窮地に陥った人々を救うというストーリが描かれた。

 ここで提案したいのは、原発の非常用の電源がすべて失われるなどの非常事態の際に、ただちに出動できる原子力サンダーバードの設置である。

 具体的な陣容は専門家の検討に委ねたいが、最低でも10チームぐらい編成する必要があるのではないだろうか。

 というのは、全国には原発が17(原子炉数は54基)存在するからだ。このうち福島第1、同第2、浜岡の3カ所(同)13基を除いても、まだ14の原発(原子炉数は41基)が点在する。原発銀座の北陸地方などは掛け持ちを認めるとしても、相応のチーム数が不可欠と思われる。

 ちなみに、今回の福島原発の1、2、3号基の事故では、東日本大震災の地震に伴う大きな揺れと大津波によって、冷却用の電源が失われてから数時間の間に、メルトダウン(炉心溶融)が起きたとされる。加えて、震災から2、3日の間に、水素爆発も起きた。これらを考慮すれば、サンダーバードを各地に配備して、数時間以内で現場に急行できる体制が求められる。

 ニュースソースに関わるので詳細は明かせないが、実は、こうした原子力サンダーバードの編成案は、すでに一部の専門家の間で議論され始めている。

 その1人によると、肝心なのは「原子炉冷却に必要な部品や装置、専門家・技術者などの人員をいつでも送れるようにチームとして設定しておく」ことだ。

 組織としては、「ガス会社や電力会社には天災などでインフラが被災した場合、相互に援助する合意があるので、そうした合意を発展させた民間組織とすることは可能」という。だが、福島第1原発の例を見ても、それでは本格的な対応は難しい。「自衛隊、消防隊などとも連携する」ことが期待されるところだ。

 ちなみに、こうした考えについて、ある防衛省関係者に取材したところ、「現行の自衛法でも『原子力災害派遣』(筆者注、自衛隊法第83条の3)の規定があるので、正式な要請さえあれば、部隊などの派遣はできる」という。

 ただ、これまで自衛隊が想定している原子力関係の部隊の任務は、放射線で汚染された地域で戦闘をすること。このため、装備が事故処理向きでないのが現実だ。例えば、防護服は、「軽量で動き易い代わりに、放射線からの防御が手薄」なものとなっている。

 仮に、原子力サンダーバードとして事故対応を任務とするならば「多少重量が増しても、あらかじめ放射線からの防御力の高い防護服を準備しておき、いざという時に長時間の作業が可能な体制を敷いておく必要がある」と、この防衛省関係者は明かす。

 このほか、原子力サンダーバードの任務としては、初期の段階で原子炉内部の物質が漏れ出して水度爆発のリスクが高まったときの窒素注入などの事故対応も想定されよう。

 警察や自治体にも原子力サンダーバードに参加して貰い、周辺住民の緊急避難の誘導を円滑にする任務も重要と考えられる。

 いずれにせよ、どの任務も、緊急事態に速やかに実施するには、日頃から訓練を積んでおくことが必要だろう。

海江田大臣の「要請」を切り捨てた新潟県知事

 菅政権の対応は、震災の復旧・復興策や原発事故対応と同様に、原発の運転再開問題でも、どちらかと言えば、国民に不安の念や反感を抱かせるお粗末なものだ。

 海江田経済産業大臣の18日の記者会見は象徴的だ。同大臣はこの日、「電力供給への不安と、火力発電で代替するコストの上昇は、産業空洞化を招きかねない」「経済発展のためにも、原発の再起動を是非お願いしたい」と、主に経済・産業の側面から原発の運転再開の必要性を訴えた。

 ところが、運転再開に不可欠な安全性の確保については「経済産業省は、緊急安全対策の着実な実施により、必要な安全性を確保していることを確認した。原発の運転継続及び再起動は安全上支障がない」と通り一遍の理屈を口にしただけだ。

 海江田大臣の要請に対して、旧通商産業省出身の泉田裕彦新潟県知事はその日のうちに談話を公表、「論評に値する内容を何も含んでいません」とばっさりと切り捨てた。

 その理由として、泉田知事は、「(大臣発言が)事故原因の検証も行わないまま、『安全性』を確認したとしているだけで、根拠が薄弱だ」などと述べている。

 タレント知事で知られる、大阪府の橋下徹知事はより過激に「「安全だと言うなら、海江田大臣たちが原発の周辺に住めばいい」と怒りを露わにした。

 確かに、福島原発事故に関する政府の対応には目を覆いたくなる。

 例えば、原子力安全・保安院は、震災から20日あまり経った3月30日になって、ようやく、津波によって電源が失われた際のバックアップ電源の整備や、原子炉で発生する熱を海中に放出する体制の徹底、使用済み燃料貯蔵プールに供給する冷却水の確保などを盛り込んだ「緊急安全対策」を指示した。

 ところが、この対策は穴だらけ。保安院は、4月7日の余震の際に東北電力の東通原発1号機で非常用のディーゼル発電機が動作不能に陥っていたことが明らかになって、ディーゼル発電機の複数化という指示を追加せざるを得なくなった。

 さらに同15日になって、電源線の複数化、電源線の耐震工事といった項目を再び追加する場面もあった。

 それでも保安院は、5月に入ると、電力会社の自己申告に基づいて立ち入り調査を行って、運転再開のお墨付きを与えようと目論んだ。

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