希代のヒットメーカーが挑むメディカル・エンタテインメント VOL.4
『陽の鳥』 著者:樹林伸

『陽の鳥』
著者:樹林伸
講談社
定価1,680(税込)

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◎担当編集者よりの紹介◎

 「生命倫理と家族愛」をテーマに、希代のヒットメーカーが挑むメディカル・エンタテインメント大作!

 関東大学畜産学部の沖田森彦は医師免許を持つ霊長類クローンの研究者。妻を亡くし、高いIQを持つ小学生の息子・有基と二人で暮らしている。1999年、沖田は助手の名嘉城数矢とともに、世界で初めてヒト・クローン胚の樹立に成功していた。科学の歴史に新たに名を刻む、世紀の発見。しかしその発表を間近に控えた矢先、息子の有基が突然の事故に遭い、この世を去ってしまう。

 悲嘆に暮れる沖田が下したある決断---それは、助手の名嘉城と共謀し、生命科学のタブーであるヒト・クローン技術によって、息子を「復活」させることだった・・・!!

「待てよ、奈緒」

 呼び止めたが彼女は止まらず、背を向けたまま無言で出て行こうとする。「研究室に飾る造花、考えておいてくれたか」

 話題を変えて、昨日の約束を持ち出した。研究室の造花アレンジメントを冬らしいものに変えたいので何か考えておいてくれと、途中下車して寄ったホテルのベッドの上で頼んでおいたのだ。

 彼女は日本の古典文学を学んでいることもあってか、今どきの若い女性にしては季節の草花に詳しい。対する森彦はといえば、生命科学の学者にしては植物の種類などに疎く、花の名前についての知識は小学生の息子以下だ。森彦が扱うのは見た目の形状ではなく、個体の中の細胞なのだから仕方ないと奈緒に言い訳したら、見た目を作るのがまさに細胞の中の遺伝子でしょう、と突っ込まれた。

「名嘉城さんに頼めばいいのに」

 奈緒は、森彦を挟んでだが食事や酒の席で何度となく彼と会っている。負けず嫌いであるがゆえに年齢に似合わぬ博覧強記で、酒が入るといささか知識をひけらかす嫌いのある彼のことを、奈緒は敬意を払いつつもあまり好きではないらしい。

「あの人なら、花の種類とかにも詳しそうじゃないですか」

 ドアを開けたままで面倒くさそうに振り返った奈緒の表情から、少し機嫌が直ったかと見て、だめ押しのお世辞を口にする。