創業36年。丁稚奉公から身を起こし、庶民の味「お好み焼き」を、いまや接待に使えるディナーにまで変え、国内外に63店舗を展開する「千房」。中井政嗣社長(64歳)のモットーは、「できるやんか!」。「ネコの手以上なら誰でも採用」の精神で、どんな若者でも一人前に育て上げる人材育成に、注目が集まっている。
大家族

人間はみんな欠けている、だから伸びる。過去はムリだけど、未来は変えられる。合い言葉は、「できるやんか!」ですなかい・まさつぐ/'45年奈良県葛城市生まれ。
'61年、中学卒業と同時に丁稚奉公に出る。
'67年、大阪市住吉区でお好み焼き屋を開業。
'73年、大阪・千日前にお好み焼き専門店「千房」1号店を開店。現在国内外に63店舗。'86年、40歳にして大阪府立桃谷高等学校を卒業。青少年の育成にも熱心で全国各地で講演を行う
奈良県の當麻町(現葛城市)生まれ。7人兄弟の上から5番目、四男です。家は農家で米を作っていました。農繁期には家族総出で働きましたが、私は農作業が嫌いでしたから、ご飯を作ったり風呂を焚いたりなど家事を手伝っていました。
丁稚奉公
中学卒業後はすぐに叔父の会社の取引先だった尼崎(兵庫県)の乾物屋へ奉公に。一番上の兄は家業の農業を継ぎましたが、あとの二人の兄も中学卒業後は奉公に出たので働くのが当たり前でしたね。
働き始めた頃は、一日の仕事が終わって布団に入るとお袋の顔が浮かんで、寂しくて毎日泣いてた。大好きなハーモニカを吹くことが唯一楽しみでした。
父の500円札
奉公に出て半年後、「チチキトク」の電報が届きました。前に手術した胃がんが再発したんです。急いで実家に戻りましたが父の最期には間に合いませんでした。口数が少なく、厳格で正義感が強かった父は圧倒的な存在だった。
ご飯もお風呂の順番もすべて父から。そんな父が、私が奉公に出る時は「1年間はどんなに辛くても泣いて帰ってくるな」と言い、そっと500円札を渡してくれた。今でも大切に残しています。親父が亡くなって初めて、もう甘えてはいられない、自分自身きちんと自立しなければと意識するようになりました。
ビラを見て独立
5年間の乾物屋での奉公を終え、姉の夫が経営していた洋食レストランでコックの修業をすることに。調理人のイロハから経営まですべて教えてもらいました。その義兄がある日、電柱の「飲食店主募集」のビラを見つけて独立をすすめてくれました。22歳の時です。
ある年配のご夫婦が営んでいた大阪・長居のお好み焼き屋を保証金、敷金など一切なく譲り渡すという内容で、そのかわり家主が希望する時はいつでもすぐに店を返すことが条件でした。
信用が一番
ようやく店が忙しくなり始めた6年目の10月10日、家主から年内で出て行くよう言われました。妻と子ども二人をかかえ途方にくれ、すがるような思いで取引のあった三福信用組合の佐藤理事長に相談したところ、80万円の貯金しかない私に3000万円を無担保で融資してくれた。これには裏話があるんです。
丁稚奉公をしている時からつけている金銭出納帳を妻が理事長に見せたことがあったらしく、10円を拾ったことまで細かく書いた帳面を「どんな担保より信用できる裏づけだ」と思っていただいたようです。
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