バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は、7月21日の上院で証言した。半期ごとに行われている金融政策の議会への報告である。その発言が注目された。日本で白川方明日銀総裁が話題になることはほとんどないが、景気については中央銀行が重要な責任をもっていることは世界の常識だ。
バーナンキ議長は、米国経済の先行きに暗い見通しを明らかにし、金融緩和策の出口はすぐに来ないという見方を示した。市場では、出口どころでなく、少し戻って追加緩和策を期待した人もいるが、当面政策変更はなく今の政策を継続するが、追加緩和策の余地もあるという慎重な言い回しだった。
もっとも、こうした出口議論がありえるのは、米国(だけでなく他の先進国も)はバランスシートを拡大し、緩和策に入ったからである。日本は入口にも入っていないから出口議論なんてありえない(1月8日付け本コラム「なぜ日本経済だけが一人負けなのか 鳩山政権は日銀に「デフレターゲット」を捨てさせろ)。
ただ、欧米のマスコミではほとんど取り上げられなかった点について、翌22日、日経新聞が次のように報じている。
「『日本と米国には重要な違いがある』
バーナンキ議長は、日本型のデフレに陥る懸念はないのかとの議員の質問に対し、(1)日本のような低生産性などの問題を抱えていない(2)米国は銀行部門の抜本改革に早期に踏み出した――などと強調。デフレは『当面のリスクではない』と強調した。」
この新聞報道をみると、低い生産性などの問題を抱えているから日本はデフレに陥っていると、バーナンキはみているとも読める。これを読んで、おやっと思った。
私は、1998年から2001年まで米国プリンストン大学に留学した。当時はバーナンキが経済学部長だったので、留学の諸手続も含めて大変お世話になった。金融政策などについて師匠にもあたる人だ。その縁もあって、彼の一般向け講演等を翻訳したこともある(「リフレと金融政策」2004年日本経済新聞社)。
その中には、生産性が高くなるとデフレになる可能性があると書かれている。これは標準的な考え方である。高い生産性は潜在成長力を高めるので、現実の需要が追いつかなくなり、需要ギャップ(GDPギャップ)が大きくなることから、デフレになるのだ。
なお、注意を要するのはデフレの意味である。日本語ではデフレというとき、一般的な物価水準の継続的な下落という本来の意味だけでなく、不況との意味で日常的に使われることがある。英語では、Deflation と Depressionは違う。まして、バーナンキのような知的水準の高い人がこれらを混同することはない。
そこで、バーナンキの議会証言(2時間半)を米国上院銀行・住宅・都市委員会のサイトのビデオでみた。同委員会はドッド委員長(民主、コネティカット州)とシェルビー幹部メンバー(共和、アラバマ州) が有力だ。両者は、金融規制改革法案で協調・対立を繰り返した仲でもある。バーナンキ議長への質問にも両者の微妙な関係が見え隠れする。
日経新聞で書かれていた「日本と米国には重要な違いがある」は、シェルビー委員が質問した。どちらかというと、バーナンキ議長に好意的なものだ。
シェルビー委員は、「米国でもデフレを心配する人がいるが、経済政策の仕組みからみて、米国と日本の違いは何か」と質問した。経済政策の話を聞いているので、率直にいえば、FRBと日銀との違いになるが、今や公的立場にいるバーナンキ議長は、無骨な答えはしない。
プリンストン大時代には、日銀はおろかだなどと平気でいっていたが、今の立場ではいえない。そこで、バーナンキ議長は、市場から観測される予想インフレ率が回復しつつあると言った後、こう答えた。
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