中国
「重税国家ランキング世界2位」中国を揺らす「税金論争」
税収の8%が税務署職員のフトコロに消える官僚国家

 日本では、菅直人首相が「消費税10%」をブチ上げて参院選で"沈没"したが、こちら中国でも、いま税金を巡る論議が、ホットになってきた。

 きっかけは、中国政府が先日、次のような発表をしたことだった。

「今年上半期(1~6月)の税収は、前年同期比27.6%アップの4兆3349億元に達した。この勢いが続けば、2010年をトータルすると、税収は8兆元を超える見込みである。昨年の税収が6兆3000億元だったので、仮に今年の税収が8兆元とすると、前年比で27%アップとなる。これにより中国は、アメリカに次ぐ世界第2位の税収大国となる」

 1元は約13.1円なので、8兆元と言えば、約105兆円に上る。日本の今年度予算では税収は37.4兆円なので、実に日本の2.8倍の税収が見込めるということだ。税収そのものもさることながら、前年比27%アップという数字も、日本では考えられない(日本は概算で1.4%アップ)。誠に隣の大国が、羨ましい限りである。

 ところが、中国政府が「朗報」として発表したはずのこのニュースが、国民の怒りを買ってしまったのだ。中国の庶民からすれば、「それほど潤沢な税収が見込めるなら、なぜ減税しないのだ!」というわけだ。

 社会主義を標榜する中国では、以前はお気楽な「中国式税制」を敷いてきた。1985年当時、都市の市民の平均月収は、60元。これを単純に12倍して、ボーナスも少し加味し、個人所得税は、年収800元以上になって初めて納付義務を持つと定めた。早い話が、都市の市民の半数以上は、所得税ゼロだったのだ。

 それが江沢民時代の1994年に、税制の抜本改革を行った。国税と地方税とを分離し、合わせて「中華人民共和国増値税暫行条例」と「中華人民共和国消費税暫行条例」を施行した。

 増値税とは付加価値税(日本の消費税に近い)のことで、消費税とは嗜好品税(贅沢品税)のことである。ちなみに、どちらの法律にも「暫定」とあるが、16年経ったいまもなお、「暫定期間」は継続しており、この国においては、暫定=半永久的を意味するようだ。

 ともあれ、旧き良き時代はとうに過去のものとなり、中国はいまや、世界に名だたる「重税大国」に"成長"した。米『フォーブス』誌の「2009年重税国家ランキング」によれば、中国はフランスに継いで第2位を頂戴している。

 何せ、主要な税金だけで、増値税、消費税、営業税、企業所得税、個人所得税、資源税、都市土地使用税、都市不動産税、都市維持保護建設税、耕地占用税、土地増値税、車輌購置税、車船税、印紙税、契約税、タバコ税、関税、船舶重量税、固定資産投資方向調整税と19種類もあるのだ。

 しかも、例えば増値税の基本税率は17%、企業所得税の基本税率は25%で、各種税率自体も、かなり高めに設定されている。以前は、平均年収以下は所得税ゼロだったのが、いまや個人所得税の最低課税対象年収は、都市市民の平均"月収"と同じ2000元だ。ちなみに同じ中国でも、香港へ足を踏み入れると、税金は8種類に軽減される上、税率もグンと安くなる。

 中国政府はこれに加え、昨年夏、「雪上加霜」(傷に泥を塗る)の"暴挙"に出た。折からの世界的金融危機で、税収が危うくなるとして、全国の税務署に対して、「所轄地域の企業及び個人の税務調査を徹底し、計1000億元(約1兆1000億円)の追加徴税を行え!」と指令を出したのである。

 「1000億元」の根拠は、2008年の追徴課税が513億元だったので、ちゃんと調べればその倍は取れるだろうというだけのことだ。

 いつもながら中国では、この手の「首長一句話」(鶴の一声)が発せられた場合、各地域の現場責任者は、実行できなければ左遷、減俸、ひょっとすると解雇が待ち受けている。そのため、全国の税務署は、秦の始皇帝の時代を髣髴させる苛酷な取り立てに出たのである。

 納税に関しては「優等生」で知られるわれわれ北京の日系企業にも、次々にマルサが入り、駐在員の日本での個人資産に課税しようとしたり、所轄でない地域の税務署が取り立てにやって来るなど、笑えない話がいくつも起こった。結局、目標を達成した昨年秋に、嵐は収まった。

 中国では国会が、一年に3月の約2週間だけ、北京の人民大会堂で開かれるが、今年の国会でも、政府は苛酷な税金に関して、議員たちの突き上げを食った。この時、議員たちの口から、「房奴」(家の奴隷)という新語が飛び出した。家を一軒買えば、5%の営業税、25%の所得税、3%の契約税、累進課税式の土地増値税に水利税など、計62種類もの課税が控えている。

 税務当局からすれば、不動産は一番課税しやすい「宝の山」で、首都・北京では、実に税収の半分が不動産絡みという、いびつな税収構造になっている。だが庶民の側からすれば、各種税金のためにマンション価格が高騰し、ローン返済の奴隷と化してしまうというわけだ。

2割の高額所得者が資産の8割を持つ格差社会

 こうした庶民の怒りに、最近になって政府は、ようやく重い腰を上げ、二段構えの新政策を発表した。

 一つは、前々回も書いたように、全国の最低賃金の引き上げだ。7月1日より、北京の最低賃金は、月に800元から、2割アップの960元に跳ね上がった。これによって、工事現場の労働者や食堂の皿洗いといった低賃金労働者は、幾ばくか救われることになった。

 もう一つは、国家税務総局が出した、「高所得者の個人所得税管理をさらに一歩加速させることに関する通知」である。これは、年収12万元(約130万円)を超える高所得者の課税を強化するというものだ。

 中国は、全体の2割以下の高所得者が、個人資産全体の8割以上を所有しているという超格差社会である。しかも、彼ら高所得者が納める個人所得税は、全体の1割にも満たない! つまり究極の"脱税(節税?)大国"なのである。なぜこんなことをいままで放置していたのかが、不思議なくらいだ。

  さらに、これは米中の税制度を比較研究している中国人学者が、このほど"告発"したことだが、税金を徴収するためのコスト(主に税務署職員の人件費)が、アメリカは税収の0.6%に過ぎないが、中国は、最大8%にも達するという。

 つまり、昨年の税収のうち、日本円にして5兆5000億円もの大金が、税務署職員のポケットに消えているのである。まさに"官僚大国"の正体見たりである。

 7月22日には、『毎日経済新聞』が、「政府がさらに2012年から、家屋資産税という新税を導入しようとしている」と、一面トップでスッパ抜いた。庶民はもう、げんなりである。

 総じて言えば、「消費税10%」で議論が沸騰している日本など、まだ幸せなのかもしれない。

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