中国
旅行解禁で人気殺到!
「中台」急接近の裏に「台湾マネー」を狙う習近平の思惑

馬英九総統〔PHOTO〕gettyimages

 北京の北三環路に面した瀟洒な高層マンション最上階のペントハウス。ある台湾人の富豪が所有するこの豪邸で、不定期に開かれている「ディープ・ブルーの会」と呼ばれるディナー・パーティがある。参加するのは、いずれも北京に拠点を置く台湾の多国籍企業の経営者たちだ。「ディープ・ブルー」というのは、「親中政策」を貫く台湾の馬英九・国民党政権の党色である「青」を色濃く支持するという意味である。

 先日開かれた「ディープ・ブルーの会」に、台湾人の知人に連れられて参席したところ、物凄い熱気で、高級赤ワインを次々に開けては、「乾杯!」の嵐だった。彼らが祝杯を挙げたのは、6月12日に、アモイで開かれている「第3回海峡フォーラム」で、中国人の台湾個人旅行解禁が発表されたからだった。6月28日より、5万元(約62万円)以上の預金を持つ北京、上海、アモイの戸籍保有者は、15日間、台湾を自由に個人旅行できることになったのだ。この措置に合わせて、中国大陸・台湾間の直行便を、週558便と大幅増便することも決まった。

 このところ、北京首都国際空港に赴くたびに、滑走路を占拠する台湾の飛行機群に感慨深くなる。国民党が政権を取り戻すわずか3年前まで、台湾は「独立」を綱領に掲げる陳水扁・民進党政権下だったため、台湾海峡は、いわば「もう一つの38度線」だったからだ。3年前までの感覚からすれば、喩えて言えば韓国の仁川国際空港を北朝鮮機が占拠しているようなものなのだ。漢民族のこの変わり身の早さには、ほとほと恐れ入る。

 私は、総統に就任する直前の馬英九氏をインタビューしたことがある。その時、馬氏は、中国大陸との交流拡大の決意を、次のように語った。

「今後は中国大陸とは、『3つのノー』(台湾は独立を言わず、中国大陸は統一と武力行使を言わない)の原則で臨みます。そして速やかに、中国大陸との直行便を開設したい。中国大陸との直行便開通は、台湾併合を加速化させるという民進党の主張は誤っています。中国大陸から大量のビジネスマンや観光客が台湾を訪れれば、台湾がどれほど進んだ民主国家かを肌で感じ、逆に中国大陸の民主化が進むはずなのです」

 馬英九総統は実際、2008年5月に総統に就任するや、懐刀の江丙坤・国民党副主席を、中国大陸との交渉窓口トップの海峡交流基金会会長に抜擢。江会長は電光石火の勢いで翌6月に北京へ飛び、週36便の直行便と、1日3000人の中国人団体観光客の台湾受け入れを決めてしまった。

 私は、この台湾政界きっての日本通として知られる江会長にも、90年代からたびたび話を伺ってきた。江会長は、2008年12月に、次のように述べた。

「両岸の直行便はまもなく、現行の週末の36便から、毎日の108便へと増便し、中国大陸の空港も現行の5空港から21空港に拡大する予定です。また、企業の売上税、所得税の課税を相互免除し、台湾ドルと人民元の両替を許可し、最終的には共同市場を目標としています」

 正直言って、当時の私は、このような馬総統や江会長の話を、まるで夢物語のように聞いていた。なにせ前述のように、それまでの8年間の民進党時代は、中台間はむしろ一触即発の状態だったからだ。

 だがこの馬・江コンビはその後も、中国大陸との交渉を猛スピードで進め、昨年6月には、中台間の自由貿易協定にあたるECFA(両岸経済協力枠組協議)を締結させてしまった。これによって、中国側が計539品目、台湾側が計267品目の関税を、それぞれ2013年1月までに撤廃することになった。これは貿易額で言えば、約167億ドル(約1兆5000億円)分にあたる。

 それから丸一年経た今回、中国人の自由個人旅行と中台500便時代を迎えたというわけだ。

「中台急接近」の思惑

 ここまで中台間が接近したのは、もちろんそれぞれの思惑がある。台湾側の思惑については、冒頭の「ディープ・ブルーの会」の面々が語っていたのは、次の二つのメリットだ。

「小島に2300万人が住む台湾は、内需拡大と言っても、たかが知れている。隣に言葉も同じ、文化も同じ世界第2の経済大国(中国)が横たわっているのだから、そこを最大限活用してこそ、台湾の経済的発展がかなうというものだ」

「われわれは中国とFTAを結んだことによって、アメリカや日本を始め、世界各国とのFTAの道が開かれた。今回の新たな合意も同様で、われわれが中国に接近すればするほど、世界は『台湾リスク』が少ないと見て、全方位的な貿易や投資拡大が可能になる」

 一方の中国側の思惑は、当然ながら国是である台湾統一だ。統一の方式としては、前世紀の鄧小平時代以来、一貫して香港・マカオ方式の「一国二制度」を提起している。すなわち、外交と防衛を中国大陸と一体化させた上で、一定期間(香港・マカオは50年)の自治を認めるというものである。

 今回の海峡フォーラムに出席した中国共産党ナンバー4の贾慶林・全国政協主席は、重要演説を行い、新たに「4つの絶対必要性」を提議した。それは、「絶対に前進、絶対に平和的、絶対に団結、絶対にダブルウィン」というもので、このスローガンは台湾側に全面的に了承された。

 海峡フォーラムは全体会議の他にも、海峡ビジネス・フォーラム、海峡青年フォーラム、海峡女性問題フォーラム、海峡科学技術フォーラム、海峡庶民フォーラム、海峡郵政フォーラム、海峡医薬フォーラム、海峡品質フォーラム、海峡農業フォーラム、海峡海洋フォーラム、海峡両岸金融提携フォーラム、海峡両岸赤十字フォーラム、両岸華僑平和発展フォーラム、海峡両岸会計制度フォーラムなどなど、実に多種多様な分科会が、福建省アモイや福州などで開かれた。

 中国側には、これだけ台湾との交流を全面展開する背景に、もう一つの秘めた狙いがあるという。明かすのは、ある中国の関係者だ。

「それは、来年秋に中国共産党トップに就く予定の習近平副主席の強い意向だ。過去の歴代トップは、それぞれ独自の『政治的リソース』をバックボーンに政権基盤を安定化させてきた。初代の毛沢東は『人民』を鼓舞し、2代目の鄧小平は広東省を開発して香港マネーを呼び込んだ。3代目の江沢民は上海浦東地区に証券取引所を作り株式マネーを創出し、4代目の胡錦濤は、全国的な不動産開発による収益を上げた。

 そして5代目となる習近平が狙っているのが、ズバリ台湾マネーなのだ。習は台湾に隣接した福建省に17年間も勤務し、台湾との強いパイプをテコにのし上がってきた。中国がこれだけ台湾を重視するのは、いわば習近平政権の『前夜祭』のようなものなのだ」

 こうした中台間の政治的な動向については、日本としても引き続き注視していく必要があるだろう。

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