AT&Tの携帯独占を支援する
シリコンバレーの現実主義

Tモバイル買収を決めたAT&TのRandal.L.Stephenson会長 (2010年CTIA会議で筆者撮影)

 3月20日、携帯業界最大手のAT&Tは、同4位のTモバイル(T-Mobil.USA)買収を発表した。以来、米国では独占の懸念から同買収に対する反対運動が広がっている。

 そうした中、ヤフーやオラクルなどシリコンバレーの大手が、連邦通信委員会(FCC)に一通の要望書を提出した。2ページの同書面で、彼らは「AT&TによるTモバイル買収を承認するように」規制当局に懇願している。

 これまでシリコンバレーはネットワーク中立性問題で、AT&Tと激しく戦って来た。その彼らが一転、独占を容認してAT&Tの支援にまわった。シリコンバレーはネットワーク中立性を放棄したのだろうか。今回は、その謎を解いてみたい。

独占を懸念し、広がるAT&T包囲網

 携帯業界トップ *1AT&TによるTモバイル買収は、390億ドル(約3兆1,500億円)と買収額が大きく、しかも重複する営業地域が多い。そのため、司法省とFCCが独占禁止法に触れないかどうか、審査を進めている。

 買収発表直後、スプリント・ネクステル(Sprin.Nextel、同業界3位)のダン・ヘス最高経営責任者は「技術革新の停滞を生むとともに、消費者にとって好ましい買収でない」と反対を表明した。これを起爆剤に、米国では市民団体が相次いで買収差し止めを求める声をあげた。

 まず5月2日、スプリントはウェスト・バージニア州公益事業委員会(Wes.Virgini.Publi.Servic.Commission)に買収差し止めを申請している。米国では州政府ごとに公共事業を担当する公益事業委員会があり、州法に基づいて認可を与えている。これに続いて、スプリントは5月31日に377ページにおよぶ買収差し止め要望書をFCCに提出している。

*1 2010年末段階で、AT&Tモビリティーが加入者数で携帯業界のトップ。一方、売り上げではベライゾン・ワイヤレスがトップ。本稿では、一般的な加入者数の順位を採用する。

 平行して、市民団体のフリープレス(FreePress)は、Tモバイル買収で「トップ2社による市場支配は8割に達して、競争環境の阻害による市民への弊害が懸念される」と強く抗議している。

 同様にオープン・テクノロジー・イニシアチブ *2なども政府機関だけでなく、連邦議員に差し止めを働きかけた。これにより、連邦議員のジョン・コンヤー氏(Joh.Conyers、D-MI、下院司法委員会メンバー)やエドワード・マーキー氏(Edwar.Markey、D-MA、天然資源委員会メンバー)などが、買収反対を表明している。

 一方、AT&Tも"業界随一のロビー力"を駆使して、買収承認への働きかけを強めている。既にテキサス州のリック・ペリー(Ric.Perry)知事を筆頭に14州の知事から支持を取り付けたほか、労働組合や地方の業界団体・市民団体の取り込みで成果をあげている。

 両陣営のロビー活動は、州議会、連邦議会、労働組合、市民団体など様々なレベルで展開されており、その激しさは増している。そうした中、長年にわたって対立してきたシリコンバレーの有力企業から支持を取り付けたことは、大きな話題となった。

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