緊急警告!日本をなめたロシアが発する「挑発的シグナル」
対日姿勢の変更を外務省の壊れたアンテナは見落としている

 菅直人政権が成立した後、ロシアから危険なシグナルがいくつか発せられている。

 第一が、「対日戦勝記念日」法案の採択だ。1945年9月2日、東京湾に停泊していた米戦艦ミズーリ号の艦上で、日本政府代表団が連合国に対する降伏文書に調印した。国際法的に日本と連合国の戦争はこの日に終結した。

 ロシアでは、以前からこの翌日の9月3日を「軍国主義日本に対する勝利の日」として祝日にしよう動きが反日勢力によって企てられていた。

 今回、日付を一日ずらし、祝日の名称を「第二次世界大戦終結の日」と変更した上で、7月7日に国家院(下院)において、7月14日に連邦院(上院)において、この法案が採択された。

 そして、上院が法案を採択してから19日以内にメドべージェフ大統領が署名し、この法律が発効する。

これまでロシア外務省は、対日関係に与える悪影響を懸念して、「対日戦勝記念日」法案に反対する姿勢を示していた。 

 しかし、今回、ロシア外務省はこの法案の採択を本気で止めようとしなかった。恐らく今後、ロシア外務省はモスクワの日本大使館員に対して次のような説明をすることになると思う。

「私たちは最大限の配慮をしました。サハリン州が主張する9月3日ではなく、2日を記念日としました。9月2日の降伏文書はソ連政府に対しても宛てられていますし、ソ連代表団も署名しています。

 それに、『軍国主義日本に対する勝利の日』という日本を刺激するような名称も避けました。1945年4月2日に第二次世界大戦が国際法的に終結したのは事実です。それですから、この事実を指摘した記念日に対して、日本が過剰な反応をしないことを望みます」

 このようなロシア人の口車に乗せられてはならない。1945年8月9日、ソ連は当時有効だった日ソ中立条約を侵犯して日本に戦争を仕掛けたのである。あの戦争において、日本は侵略された側である。

 ソ連崩壊後、エリツィン政権、プーチン政権はこの事実を認めた上で北方領土交渉を行っていた。ある種の「後ろめたさ」があるから、反日勢力による「対日戦勝記念日」制定の動きをロシアの大統領府と外務省が抑えてきた。

 しかし、今回、ロシアは明らかに対日姿勢を変更した。

 その直接の引き金となった理由は、対露関係改善に熱心であった鳩山由紀夫総理が退陣し、菅政権が成立したからだ。カナダを訪問した菅総理は、6月26日昼(日本時間27日未明)、主要国(G8)首脳会議(ムスコカ・サミット)の会場内で、ロシアのメドベージェフ大統領と会談した。

 この会談の結果を踏まえ、ロシアは菅政権に対して、冷淡な姿勢を採り、日本側の反応を見ることに決めたのである。

 さらにロシア側は挑発的な第二のシグナルを日本に対して発してきた。日本の外交官がロシア語を十分に理解できないと見ているせいであろうか、最近、ロシア政府は日本の政治エリートに伝えたいシグナルをわざわざ日本語に翻訳して流してくる。

 7月12日、メドべージェフ大統領が、諸外国に駐在するロシア大使を呼び集め、会議を行った。この会議について、ロシア国営ラジオ「ロシアの声」(旧モスクワ放送)は日本語でこう報じた。

<ロシア大統領、欧米軸のイノベーションに前向きロシアのメドヴェージェフ大統領は12日、各国駐留のロシア大使をモスクワに集めて演説し、外交を通じた経済・社会改革を訴えた。大統領広報部が発表した。

 大使会合は2年毎に開催されており、今回で5回目。国の外交方針を確認する大統領の演説が主な内容で、外交官への叙勲式も執り行われる。また、大統領は12日付で、外国で生活・活動するロシア人ならびに企業の保護などを取り決めた領事規約を承認した。

 大統領は演説で、外交の原則として実利主義、オープンな姿勢、多面性に加え、「偏見の除去」を挙げ、ポーランドとの間で歴史問題に関して共同作業が始まっていると述べた。

 また、政権の目玉とする経済・社会構造改革については、「どの国との協力が最も効率がよいか見極める必要がある」と述べ、米独仏伊および欧州連合(EU)全体を主要なパートナーとした。

 また、多面的な交流や新たな投資の相手としては、中国、インド、ブラジルからなるBRICsへの重視を明言。

 アジア太平洋地域については、極東・シベリア地方の開発やイノベーション経済の発展などで「尽きることのない資源がある」と評価すると共に、東部国境の安全保障を目指すとした。国別では、「国際社会での連携を含めた中国との戦略的パートナーシップ」「インドとの今後の協力発展の保障」「日本との交流強化」の順で述べた。

 また独立国家共同体(CIS)との協力については、欧州と共同でのイノベーション化を掲げつつ、「欧州、米国、アジア太平洋におけるプロセスと対置してはならない」

 と関係の独自性に言及した。カザフスタン、ウクライナとの関係を特に強調した。

 国際協力全体としては、経済成長や気候変動などグローバルな問題におけるロシアの地位向上を指摘し、国連の活用や途上国援助の改善を課題とした。核軍縮条約に至った露米間の国益の一致、欧州安全保障の新枠組み構想、集団によるテロ・麻薬対策、イランの核問題にも言及した。>
(7月12日「ロシアの声」日本語版HP)

  日本は完全になめられている。

  まず日本は、ロシアにとって米国やドイツのような「主要なパートナー」ではなく、アジアにおいても、日本はもはや中国、インドに次ぐ3番目の地位しか占めないことを露骨に表明している。

 さらに、メドべージェフ大統領は、<外交の原則として実利主義、オープンな姿勢、多面性に加え、「偏見の除去」を挙げ、ポーランドとの間で歴史問題に関して共同作業が始まっている>と指摘していることも日本との関係に引き寄せて解釈しなくてはならない。

 ポーランドに関しては、スターリン主義の「負の遺産」を克服する姿勢を明確にしているメドべージェフ大統領が、同じくスターリン主義によって引き起こされた北方領土問題に関しては、一切言及していないことに注目すべきだ。もちろん故意にこのような「使い分け」をしているのだ。

モスクワの日本大使館も機能不全

 筆者は外交官として、17年間、対ロシア外交の第一線で情報戦に従事してきた。ロシア側は、「対日戦勝記念日」の制定、日本を中国、インドに次ぐ国と軽視する姿勢、さらに日本に対してはスターリン主義の清算を行わないという挑発的なシグナルをあえて送り、その反応を見て、対日政策を再編しようと考えている。

 日本外務省やモスクワの日本大使館が、ロシアが発信するシグナルの危険性を認識していない。「現代ビジネス」の各連載を内閣情報調査室は詳細にチェックしていることと思う。

 日本外務省のアンテナは壊れている。内閣情報調査室が、よくアンテナを働かして、菅直人総理、仙石由人内閣官房官房長官、さらに外交を担当する福山哲郎内閣官房副長官に、ロシアが出しているシグナルについて注意喚起してほしい。

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