木村前会長の逮捕では解決しない日本振興銀行「本当の試練」
メールを削除して何を隠蔽しようとしたのか

 日本振興銀行が、前会長の木村剛(48歳)や現職社長だった西野達也(54歳)ら幹部が5人も逮捕されるという激震に見舞われた。

 あの「小泉・竹中」時代に、金融庁顧問として金融の「再生プログラム」(竹中プラン)や「検査マニュアル」の策定を主導した木村前会長は、いったい、なぜ、こんな事件を引き起こしたのか。

 そして、振興銀行は、行く手に広がる、さらに大きな試練を乗り切ることができるだろうか。

 14日午前の逮捕を受けて改めて取材したところ、意外だったのは、木村前会長を擁護する声が予想したよりはるかに強かったことである。一端を紹介すると、

「あの曲がったことが大嫌いな男が、そんなことをするとは思えない」(木村前会長の外資系コンサルタント時代をよく知る人物)

「また(立派な人物が)スケープゴートにされた。この期に及んで、意趣返しを狙う守旧派の執念深さには驚かざるを得ない。日本はどこへ向かおうとしているのか」(外資系金融機関幹部)

「逮捕容疑は、小さな問題だ。余罪が出て来なければ、仮に起訴されたとしても、執行猶予が付く程度の問題ではないか」(メガバンク広報部門)

「『検査忌避』などと言うと大袈裟に聞こえるが、実態は、どこの金融機関でもやっていそうなショボイ話が中心だったはず。数少ない前例のUFJのケースと同じで、ためにする議論に過ぎないはずだ」(元政府関係者)

といった具合だ。

 ただ、最後に紹介した元政府関係者だけは、「どうしても腑に落ちないこともある」と、心中の戸惑いを口にした。「(逮捕の直接の容疑となった)メールの削除は動かせない。明確な法令違反だ」と述べたのだ。「その点を指して、木村前会長は逮捕直前の事情聴取で全面否認したと聞く。だが、なぜ、全面否認できるのか。その理屈・根拠が理解できない」と付言した。

 逮捕された容疑に関して言えば、この元政府関係者の不安は図星だろう。金融機関では、個人に支給されているパソコン(端末)とは別に、サーバーでメールを全体として総合的に管理・保存する体制が敷かれており、上層部の関与がなければ消去など不可能な仕組みになっているはずだからである。

 だからこそ、金融庁は、異例の長期に及んだ振興銀行に対する検査の過程で、多数のメールが削除されていたことを把握し、これが検査忌避にあたるとして、警視庁に告発した。ちなみに、報道によると、削除されたメールの数は、700通を超えていたらしい。

新聞報道によると、木村前会長は、社内会議でメール削除を指示したとの嫌疑を逮捕後も全面的に否認し続けているようだ。部下たちはそんな木村前会長を庇い切れず、全員がそろって容疑を認めているという。

 もはや、当局の捜査の焦点は、こうしたメールの削除や検査忌避(個人には1年以下の懲役または300万円以下の罰金、法人には2億円以下の罰金という刑事罰の規定がある)の問題にとどまらない。

 当局の関心は、すでに、振興銀行のメールの削除という検査忌避の立件から、むしろ検査忌避によって隠ぺいしようとしたことの中身の追及に重心が移っている模様だ。

 その中には、破産手続き中の商工ローン大手SFCG(旧商工ファンド)との間で行われた出資法違反の疑いのある取引や、独占禁止法が禁じた「優越的な地位の乱用」の可能性のある融資案件などが含まれているという。さらには、迂回融資の有無なども疑われているらしい。

 とはいえ、振興銀行にとっての本当の試練は、こうした法令違反に対する当局の捜査の行方や処罰ではなさそうだ。

 むしろ、もっと直接的に存亡を左右する懸念があるのは、「中小企業融資に特化する」という設立理念に基づいたビジネスモデル作りが不調に終わったことだ。

企業として存続の危機も


木村前会長は、バブル崩壊後の銀行による貸し渋り、貸し剥がしといった異常事態が相次いだ時期に、中小企業向けの金融に着目。「ミドルリスク・ミドルリターンの期待できる市場」「未踏の地」などと称して、従来の銀行とは異なるタイプの銀行の設立を模索した。木村前会長が政治力・影響力を駆使したことから、銀行免許の取得は異例の短期間で進んだとされる。

 当時から、木村前会長の出身母体の日銀には、そうした木村氏の強引さへの反発から、あえて、日銀との直接取引を拒否する判断が働いた。竹中平蔵金融担当大臣や元日銀総裁の福井俊彦氏ら実力者から「なぜ、認められないんだ」との問い合わせが相次ぎ、むしろ、それらが逆効果だったと指摘する向きもある。

 創業メンバーの不適切な交友関係が露呈し、内紛が泥沼化、木村氏自身が社長に就かざるを得なくなるトラブルもあった。前面に出て責任をとる立場に立たざるを得なかったのだ。

 そして、中小企業金融というビジネスモデルが画餅に終わると、木村氏は、独断で強引な経営の路線変更を行った。そうしたことには、「自身の経営責任や、部下に対する責任を強く認識すべきだった」(振興銀行関係者)との批判も少なくない。同行では、人材が育っていないばかりか、組織的に経営を行う体制がいまだに整っていないからである。

さらに、活路を求めて拡大してきたノンバンクからの債権買い取り戦略の失敗を重大な問題と捉える向きもある。中でも、SFCGから買い取ったことになっている債権が、同行の経営にとって致命傷になる可能性が高まっているというのだ。

 どういうことかと言うと、SFCGがこうした債権を二重譲渡していた疑いがあるのだ。このうち、振興銀行が買い取った債権は、総額にして700億円程度に上るという。こうした債権について、振興銀行が、中間決算期末にあたる9月末に新たな引当金を積む必要が生じ、日本振興銀行が企業として存続することさえ難しくなるとの懸念さえある。

 振興銀行は課題が山積み。預金の解約多発騒ぎを引き起こさず、無事に長期の業務停止処分が解けたとしても、待っているのは「茨の道」である。

(文中一部敬称略)
 

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