W・モズバーグインタビュー(後編)「消費者本位の記事はこれからも増え続ける」
子供のためにアメリカ最強のITコラムニストに転身

前編 はこちらをご覧ください。

――コラム「パーソナルテクノロジー」は消費者本位の視点を売り物にしています。今では同様のコラムはたくさんありますが、1991年にスタートした時点では異例でした。なぜそうしたのですか。

モスバーグ 1991年当時、IT関連のコラムはすでにたくさんあった。ただし、ITを崇拝するマニアがマニア向けに書くコラムばかりだった。

 ぼく自身がパソコンを個人的に使い始めたのは1981年ごろ。IBM製の元祖パソコンがちょうど登場したころだ。それから数年後にはパソコン通信も始めた。パソコン通信大手のコンピュサーブを覚えている? パソコンの黎明期だった。

 パソコン時代が幕開けしようとしている時に、すでにパソコンをかなり使っていたわけだ。そんなことから、パソコン雑誌向けにアルバイト原稿を書くこともあった。パソコンにはまっていたと思う。

 パソコンの使い方を知るためだけに何千時間も自分の時間を浪費してきた――ある時、こんな思いが頭をよぎった。パソコンは一般の利用者が使うには難し過ぎた。パソコンを使っていてトラブルに見舞われると、パソコン通信の電子掲示板を使ってよく情報交換したものだ。

 当時のパソコン利用者は、素人であるかマニアであるか、そのどちらかだった。パソコンを使いこなしたければ、マニアになりたくなくてもマニアになる必要があった。

 何かがおかしいと思った。「マニアでもないし、マニアにもなりたくない利用者に対し、普通の言葉で分かりやすく説明する方法があるべき」という意見を持つようになった。これがぼくの原点だと思う。

 個人的には「これから本格的なIT時代がやってくる」と読んでいた。普通の人間が日常的にITに接する時代、言いかえれば「ITの民主化」時代の到来だ。自宅でも仕事場でもパソコンを使わざるを得ないけれども、パソコンマニアにはなりたくないと思う人が爆発的に増える――こう考えた。

 ここに潜在需要があると思い、WSJの編集局長に「パーソナルテクノロジー」のアイデアを売り込んだ。

――先見の明があったわけですね。

IT記者に転身した個人的な理由

モスバーグ 以上は「パーソナルテクノロジー」を立ち上げた職業上の理由だ。個人的な理由もあった。

 当時、子供と会う時間がないほど忙しかった。1990年前後、WSJで国家安全保障問題を担当し、世界中を飛び回っていた。日本へは行かなかったけれども、ソ連や中東、ヨーロッパへは数え切れないほど出張した。飛行機の中で生活しているようだった。

 どうにかして仕事と家庭との両立を実現する方法はないかと考えた末、安全保障担当の記者からITコラムニストへ転身する道を思い付いた。職業人として新しい分野を切り開くと同時に、父親として子供との時間を確保できるという意味で、一石二鳥だった。

――あなたは安全保障担当記者として国務省やペンタゴン、CIA(中央情報局)、ホワイトハウスを取材していました。当時の取材経験は今、役立っていますか。

モスバーグ 役立っていると思う。

 ワシントンの巨大権力を相手に調査報道をやっていた。その過程で権力との接し方についていろいろと学んだ。ぼくの記事をめぐって、FBI(連邦捜査局)が調査に乗り出したことも何度かあった。だれがぼくに機密情報をリークしたのか、突き止めるためだった。

 巨大IT企業も権力だ。権力との接し方という点では、安全保障担当だった時と変わらない。スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツらIT業界の大物を怒らせても怖くない。かつてはホワイトハウスを怒らせたこともあるのだから。権力にアクセスできなくなったら別の手段で情報を収集すればいい。

――ITコラムニストと調査報道記者に共通項は?

モスバーグ 直接的にはあまりない。同じジャーナリズムであっても、主観的な意見を表明するコラムと権力の暗部を暴く調査報道は別物だ。ただし、ITコラムニストになった後も、調査報道記者として培った取材技術や経験を生かすこともある。

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