『寂聴辻説法』
著者:瀬戸内 寂聴
『寂聴辻説法』
著者:瀬戸内寂聴
集英社インターナショナル
定価1400円(税込)
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◎担当編集者よりの紹介◎

  岩手県や徳島県で今も続いている寂聴さんの青空説法はあまりにも有名ですが、実は この数年、インターネットを通じて、老若男女の人生相談にも答えておられるのをご存じでしょうか。

  本書は携帯サイトで今も続いている「寂聴の人生相談室」(株式会社グリオ/ニフティ)の内容を再構成し、活字化したものです。
  お坊さんの人生相談というと「生老病死」の古典的(抹香臭い)テーマかと思いきや、さすがは寂聴さん。
  リストラ・失業の苦しみ、介護の悩み、不倫の泥沼、スピリチュアリズムへの疑問、 美容整形の後悔、はては戦争撲滅の相談(!)まで──実にさまざまな質問に対して、ときに優しく、ときに厳しく答えていくさまは、まさに快刀乱麻の四文字がぴったり。
  10代から70代までの人に送る、これぞ「今どきの人生相談」。 現代ビジネスの読者のみなさんにもオススメの一冊です。

* * *

[1] 借金返済のため、子どもの養育のため、風俗で働きたいのですが、これは罰当たりですか?

--- 子持ちのバツイチの会社員ですが、借金があります。会社の給料が少ないので、借金返済のため、風俗でのアルバイトを考えています。人に言えないようなバイトですし、精神的に辛くなる時があるでしょうが、子どものためにも覚悟を決めるしかないかなと思っています。仏さまはこのような人間のことをどう思われるのでしょうか。(30代女性 会社員)

 はっきり言いますが、そうやって身体を売ってお金を稼いだところで、あなたの借金は減らないでしょう。むしろ簡単にお金を稼ぐことを覚えたことで、ますます金遣いが荒くなり、生活がさらにすさむことになるでしょう。その結果、もっともっとひどい状態に堕落することは目に見えています。

 それを昔の人は「悪銭、身につかず」と言ったのです。もちろん、仏様もそのようなことはお認めになるわけがありません。

 かといって、借金が多すぎて、いくら耐乏生活をしても返せるあてがないというのでは困りますね。どういう理由で借金が増えたか、その事情は分かりませんが、しかし、結局はあなた自身が蒔いた種であるのだろうと思います。

 体を売るだけの覚悟があるのであれば恥をかいても、ここは弁護士さんや司法書士さんに相談して、自己破産をするなり、借金の整理をしてしまうなりして、ゼロからおやり直しなさい。そして、子どものためにも身を慎んで、借金のない生活を送るようにしてください。

「お金さえあれば問題が解決する」と思っているかぎり、あなたは不幸の連鎖から抜け出せません。

 

[2] 人と仲良くなれない私。このままではダメですよね。

--- 両親の仲が悪く、愛情関係の薄い家庭で育ったせいか、子どものときから人の好き嫌いが激しい自分のあり方に悩んでいます。ことに嫌いな人に対しては、口も利きたくないし、目も合わせたくないというくらいの状態です。こういう性格ですから、会社に勤めていてもうまくは行きません。特に初対面の人との会話は苦痛に感じるくらいです。「このままではいけない」とは思っているのですが、なかなか変わることができません。(40代女性)

 詳しくは書かれていないので分かりませんが、きっとあなたは子ども時代から何事も斜に構えて見る性格で、他人のいいところよりも欠点のほうが先に目についてしまうタイプなのでしょう。

 だから、ひとたび他人の嫌なところを見つけると、その人が許せなくなるし、そばにもいたくないと思ってしまう。

 そうしたあなたの気持ちは間違いなく相手にも伝わっているはずですから、相手だってあなたに好意的に接してはくれません。これでは悪循環の繰り返しで、心の許せる友人ができなくてもしょうがありませんね。

 人間というものは、相手が自分に好意を抱いていると感じると、好意でお返ししたくなるし、逆に悪意を抱かれていると思うと、悪意でお返しをしたくなる性質を持っているのです。猫や犬だって、動物が嫌いな人間のところには近寄ってこないじゃありませんか。人間もそれと同じです。好かれているか、嫌われているか、すぐ分かるものです。

 だから、これからのあなたは世間の人に対して、できるかぎり好き嫌いのハードルを下げて生きていくようにしてください。あなたも私も含めて、人間というのは欠点だらけの生き物です。あなたのように他人の悪いところ、ダメなところばかり探していれば、たとえ最初はあなたに対して好意的に接していた人でも離れてしまうのは当然です。

 さらに言えば、あなたからすれば欠点にしか見えないことでも、他の人から見れば美質になることだってあります。あなたの「秤」の尺度がつねに正しいとは限らない。そのこともよく心に刻んでほしいと思います。

 とはいえ、世の中にはどうしても「この人は苦手」という人間はいるものです。そういう人に対してまで好意的に接しなさいとまでは言いません。むしろ、苦手な人、嫌いな人と一緒にいると、知らず知らずのうちにあなたの中に悪意という毒が溜まってきます。ですから、なるべくそのような相手には近寄らないようにしましょう。

 そのように心がけたうえで、多少は他人を見る目を甘くして、今までは嫌いな人が七で、好きな人が三というくらいの割合であったとしたら、それを五分五分にするくらいの努力をしてみてください。

 相手のいいところ、長所だけを見るようにして、あえて欠点には目をつぶるようにしてください。そうしていけば、やがて相手もあなたのいいところを見つけてくれるはずです。

 あなたはきっと子どものときから繊細で、だからこそ相手の嫌なところも見えてしまうたちだったのでしょうが、その繊細さを今度は相手を思いやる方向にむかって使っていけば、きっと人間関係もがらりと変わっていくと思いますよ。自分だって、人から嫌われているかもしれないでしょう。でも、それを許されて生きているのです。

 人はみな許されて生きている──そのことも覚えていてください。

どうしても嫌いな人ならば、つきあうことはありません。でも、多少は他人に寛容になってみましょう。世界が変わります。