司法判断は妥当ではあるが、不公平だ
ホリエモン裁判が市場にもたらした「罪」

ライブドア元社長の堀江貴文氏

 ライブドア元社長の堀江貴文氏が近く収監され、日本のどこかの刑務所で2年4ヵ月あまりにわたって服役する見通しになった。最高裁が堀江氏の上告を棄却し、下級審の判断が判決として確定したからである。

 だが、当の堀江氏には反省の色がまったくない。それどころか、記者会見などで無罪の主張を繰り返し、司法や検察への不満をぶちまけている。

 堀江氏のサポーターたちも守り抜く考えなのだろう。ブログやツィッターには「堀江氏は国策捜査に嵌められた」とか「あまりにも量刑が不当」といった援護射撃が溢れている。

 しかし、こうした議論の多くは的外れだ。確かに、量刑の不公平さには否定し難い面があるものの、堀江氏に対する判決は妥当と評価できる。

 むしろ、筆者には、より本質的な問題があることを承知しながら、検察が捜査を急ぎ過ぎ、それらを真正面から事件としなかったことが係争に影を落とした気がしてならない。この点にこそ、ライブドア事件の本質が理解しにくくなった原因があると言わざるを得ない。

「世の中は不条理だ。これからも不公平であることを訴えていく」---。

 4月26日。堀江氏は記者会見に臨み、1時間半近くにわたって、自身が冤罪の被害者であると訴えた。その模様は、YouTubeでも中継され関心を集めた。

 会見の最中から、ネット上には、おびただしい数の書き込みが溢れた。その大半は、堀江氏擁護論と、司法やマスメディアに対する異論だった。堀江氏に批判的な議論もないわけではなかったが、秤に掛ければ、堀江支持派が圧倒的な多数だった。

 堀江支持論の根底には、堀江氏が検察による国策捜査の犠牲になったとの同情論がある。インターネットを中心にした技術革新を背景に、日本の経済社会に変革をもたらそうと試みたことが目の敵にされ、政官財のトライアングルのエスタブリッシュメントから猛反撃を受けたという陰謀論と言い換えてもよいだろう。

 しかし、堀江氏らの主張は妥当と言えるだろうか。

ジェットコースターのように急変した粗利益率

 簡単に、おさらいすると、ライブドア事件で検察が指摘した2つの違法行為は、いずれも旧証券取引法(現金融商品取引法)が禁じているものだ。

 具体的には、(1)2004年9月期決算で、自社株の売買益や架空の売り上げを取り込んで期間損益を53億円程度水増し、赤字を黒字に見せかけた、(2)2004年秋、グループ会社が買収する出版社の価値を実態より大きく見せる偽計を行った---の2つである。

 これに対して、ブログや上告趣意書で本人や代理人が明かしている反論は、そうした行為が存在した事実は認めるものの、それらの行為は投資事業組合などを介した複雑かつ技術的なもので、違法・合法の線引きも明確でないため、担当者任せになっており、堀江氏本人は「違法性を認識していなかった」「故意ではない」という趣旨である。

 量刑も不当との立場だ。山一証券(7428億円の粉飾で、元社長に対して懲役3年・執行猶予5年の高裁判決)、日本債券信用銀行(1592億円の粉飾で、元会長に対して懲役1年4ヵ月・執行猶予3年の高裁判決)、カネボウ(利益で58億円・資産で753億円の粉飾で、元社長に対して懲役2年・執行猶予3年の地裁判決)、フットワークエクスプレス(経常利益で274億円、当期未処分利益で1340億円の粉飾で、元社長に対し懲役2年・執行猶予3年の地裁判決)、店頭公開企業アイペック(約80億円の粉飾で、元社長に対し懲役1年8ヵ月・執行猶予4年の高裁判決)といったライブドア以前の5つのケースと、日興コーディアル証券のようなライブドア事件後のケースを示したうえで、ライブドアだけが著しく重い処分を科されようとしていると主張している。

 だが、自社株の売買益を売り上げ、ひいては期間損益に取り込んではならないというのは、企業会計の基本原則である。企業が株式の公開を意識した時点から、そうした基本は上場事務を担当する幹事証券会社や監査法人から厳しく指導を受けるはず。

 それを知らなかったというのは、俄かには信じ難い話である。経営者本人か、幹事証券か、あるいは監査法人の誰かに落ち度があったことになるからだ。争点になったのが、技術的な話に過ぎず、担当者任せにしていた問題で「(堀江氏は)認識がなかった」という主張も、釈明としてお粗末過ぎる。仮に事実ならば、経営の怠慢として責任を問われる話である。

 2点目の架空売り上げにも関連するが、粉飾決算が行われた2004年9月期を挟む3期間に、ライブドアグループの経営はジェットコースターのような動きをしている。その不自然さに気付かなかったというなら、経営者としての資質にも疑問符が付く。

 そのことをよくあらわすのが、売上高から売上原価を引いた粗利益を、売上高で割った「粗利益率」である。粗利益率は、ごく基本的な経営指標のひとつだが、ライブドアグループでは、これが2003年9月期の32%から2004年9月期の45%に急上昇したあと、再び2005年9月期に37%と急落している。

 粗利益率は、どのような業態であれ、ほんの1、2%改善するのに、血の滲むような経営努力を必要とするのが普通だ。

 なぜ、いきなり、これほどの改善と悪化が起きたのかモニターしていなかったとすれば、堀江氏は真の意味でライブドアの社長業を果たしておらず、実権の無い飾り物の経営者だったことになる。

 この辺りについて、会計評論家の細野祐二氏が著作『法廷会計学vs粉飾決算』(日経BP刊)の中で、「よほどの構造変化でも無い限りここまで大幅に変動するものではない」との見解を明らかにしている。

 とすれば、堀江社長は、その理由を克明に理解していた、つまり、粉飾決算の実態を知っていたとみなすのが自然なのである。

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