心筋梗塞、脳梗塞、飛び降り―中国で突然死する日系企業日本人幹部たち
ゴールドラッシュの国の過酷な実態

 久しぶりに北京から東京に一時帰国して、日本の中国報道に驚いている。

 中国はすごい! 金満中国! 中国ビジネスで一攫千金! 中国特需が日本を救う!・・・。少し前まで、やれ毒ギョーザだ、海賊版だ、領土侵犯だと「中国脅威論」が蔓延していた。いまや日本のメディアを見ていると、まるで中国が「黄金の国」に生まれ変わったかのようだ。

 日本にとって、中国は本当にゴールドラッシュの国なのか?

 俗に「近未来の経済の鏡」と言われる株価を見てみよう。今年上半期(1月~6月)の上海総合株価指数は、実に26.82%も下落した。市価にして2.4 兆元(1 元=13円、以下同)が、この半年で露と消えたことになる。6月末に、上海総合株価指数が2400ポイントの大台を割り込んでいるなど、半年前に誰が予想しただろう? 

 中国ビジネス界のいま一番の話題と言えば、「農行」(中国農業銀行)の上場である。7月15日に、中国4大国有商業銀行の一角である「農行」が、上海市場に上場し、翌日には、香港市場に上場する。「農行」は、個人顧客数3億2000万人、支店数2万3624ヵ所を誇る、超メガバンクである。上場にあたっての市場からの資金調達額は、日本円で約1兆7000億円! まさに巨艦の進水だ。

 ところが、過去の中国市場への上場実績を見ると、10大大型上場企業の中で、その後、株価が下落していないのは、中国工商銀行ただ一行だけなのである。

 しかも中国農業銀行は名前の通り、経済が立ちゆかない中国の農村部に浸透している銀行であり、「巨艦」の今後の運航が順風満帆とは、とても思えない。

 もそも市場は悲観論に満ちているからこそ、それに引きずられて、上海総合株価指数は、下落を続けているわけである。今後、この巨艦が暗礁に乗り上げた場合、中国経済全体に与える影響は、計り知れない。

 中国の中央銀行にあたる中国人民銀行は、6月19日に、人民元為替レートの緩和策を発表した。これによって、元高ドル安という局面が、急速に進行している。ある統計によれば、元がドルに対して1%高くなると、その影響で、輸出は0.5%以上減速するという。

 となると、中国で生産→日本その他に輸出、という「黄金のパターン」で発展してきた中国の日系企業は、少なからぬ打撃を被ることになる。

 さらに、人件費の高騰が追い打ちをかける。現在、中国において日系企業が雇用している中国人は、1000万人近くに上る。そんな日系企業の日本人幹部たちが、最も神経を尖らせているのは、従業員の賃金アップである。

 折しも、5月末には、広州ホンダの工場で労働争議が巻き起こった。ホンダは、中国の数多ある日系企業の中で、長く売上高トップを維持してきた、いわば「日系企業の象徴」である。

 そんなホンダが、工場労働者のストライキによって、広東省の4工場が操業停止に追い込まれ、ストは湖北省武漢の工場にも広がった。そして、ストライキの波は、燎原の火のごとく、南から北へと広がり、多くの日系企業が、対応策に頭を抱えている。

 ところが中国政府は、日系企業に助け船を出すどころか、6月末に、驚くべき通達を出した。7月1日より、中国各地の最低賃金を大幅に引き上げるというものだ。

 新たな最低賃金は、時給に換算して、北京市が960元(20%アップ)、上海市が1120元(16.7%アップ)、広東省が1030元(21.1%アップ)、最南端の海南省に至っては、37.03%アップの830元である。

 最低賃金のアップ率というのは、各従業員の給料を上げる際の目安となる数値なので、単純に言えば、北京市内に工場がある日系企業は今後、人件費が2割増す可能性があるということである。

106人の日本人死亡者の内訳は

 思えば、中国はそもそも「労働者の国」であり、俗に言う「労働三法」によって、労働者の権利が手厚く保障されている。三法とは、1992年に施行された労働組合法、1995年に施行された労働法、そして2008年に施行された労働契約法である。

 中国労働統計年鑑によれば、昨年は1万4000件もの労働争議が中国各地で起きており、労働争議参加者数は、延べ101万7000人にも上る。

 以前の中国の労働者と言えば、田舎から集団で出稼ぎに来て、黙々と働いては親元に仕送りを送るという「勤労青年型」が多かった。だがいまや、「80后」(1980年以降の生まれ)、「90后」(1990年以降の生まれ)と言われる贅沢一人っ子の新人類たちである。仕事に不満があれば、すぐさまネットやケータイを使ってぶちまけ、不満の渦はたちまち全国に広がっていく。

 このようなパワフルな中国人従業員たちを日々管理している日系企業の日本人幹部たちのストレスたるや、尋常ではない。

 私の手元に、A4の紙3枚から成るコワ~イ資料がある。「事故日」、「年齢」、「傷病名」、「来華形態」、「処理方法」という5項目があり、それぞれ詳細に記されている。この資料は、ある日系の保険会社が取り扱った「2009年中国国内の日本人死亡状況」なのである。

 この資料によれば、昨年だけでこの保険会社は、計106人もの日本人の死亡者を取り扱っている。その大半が、日系企業の駐在員であり、40代、50代の働き盛りの日系企業の幹部たちが、次々に倒れていく実態が分かる。しかも突然死、脳梗塞、心筋梗塞、飛び降り自殺といった死因が目を引く。

 この保険会社社員が明かす。

「これはあくまでも、わが社が取り扱ったケースであり、全体のごく一部にすぎません。たとえ死に至らなくても、中国人社員との軋轢に悩んで、ノイローゼに陥るケースが後を絶たないのが、最近の傾向です」

 日本のマスコミの「中国=ゴールドラッシュ論」の実態は、こんなものである。

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