他県のテレビしか見られなくなった地域もある地上派デジタルの「高齢者切り捨て」
政見放送も別の選挙区の候補者

 私事で恐縮だが、筆者の郷里で、ちょっとした「ニュース」がある。「ふるさと自慢」の類ではない。テレビを地上波デジタル放送対応にしたら、他県の放送しか映らなくなったという話である。

 筆者の郷里は福岡県豊前市。福岡県東部に位置し、大分県境に近い。人口約27000人の過疎の街だ。産業もほとんどないため、自主財源に乏しく、1975年度からの4年間は赤字再建団体に指定されていた。

 ちょうど筆者の小学生時代である。地元の市立の小中学校に通ったが、学校にはプールも図書館もなかった。「平成の大合併」でも近隣の市町村から見離され、どことも合併できなかった。

 その豊前市の一部、具体的にはJR豊前松江駅周辺地域で、地上波デジタル放送に対応するため、自前でお金を払ってアンテナなどの工事をしたら、NHKも民放も山口県の放送しか映らなくなった。福岡県の放送はまったく映らない。筆者の実家もそうなった。

 ローカルニュースや天気予報も福岡のものではなく、山口のもの。民放のローカルCMも山口県内の企業のものが多い。山間部でもなく、周防灘に面した平野部の地域であり、電波障害があるとも思えない。

 地元の人が総務省の関係団体の窓口にクレームをつけたり、問い合わせをしたりしても、映らなくなった理由や対応策などを分かりやすく説明してくれないという。市役所に相談に行っている人もいるという。筆者の実家にもその関係団体の人が調べに来たが、「異常はない」と説明するだけだったという。

 筆者の70歳の母親が「若手」に属する地域である。高齢化も進んでおり、こうした問題に詳しい住民もいないため、ほとほと困り果てている。

 特に7月11日は参議院選挙の投開票日だが、政見放送は、山口県選挙区の候補者のものが放映され、福岡県選挙区の候補者のものを見ることができない。

 また、梅雨の時期には北部九州でも大雨が降るが、天気予報や災害警報等も山口県内のものしか見ることができない。地元の関係者曰く。

「田舎者だと思って国もNHKも馬鹿にしちょるんよ」

 

 そこで、筆者が総務省デジタル放送受信推進室に問い合わせると、担当者が「映りが悪くなったという地域はありますが、他県の放送が入るようになったことはあまり聞いたことがない例」との回答だった。テレビの放送は国の免許が必要な事業であり、原則、都道府県単位で放送事業が許認可されている。

 アナログ放送時代は、県境等の地域では、他県の放送が映ることもあったが、デジタル化されたことで、逆に他県の放送は見られなくなるのが一般的だという。

共同アンテナや衛星受信が必要に

 直接担当する総務省の出先である九州総合通信局は「難視対策が必要だが、状況を調べたうえで、場合によっては共同アンテナを建てたり、衛星で受信したりするような対応が必要かもしれない」と説明する。かかるコストは受益者負担になるが、様々な補助金制度はあるという。

 もし、こうしたことが東京都内で起きていたら、メディアも騒ぎ、大問題になるだろうが、片田舎では今のところ見捨てられるだけである。

 政見放送を見られなくても直接命に関わることはないにしても、天気予報を気軽に見られなかったら、台風の時に暴風雨に関する適切な情報を入手できず、被害に遭う可能性もなくはない。

 菅直人首相は就任の記者会見で「最小不幸社会」を謳った。

 しかし情報過疎にある地方の高齢者らが有権者として適時かつ適切な情報提供を受け、また生活者として自立的な判断ができるようにすることは、「最小不幸社会」構築の前提条件のひとつではないだろうか。

 政治不信は、「政治と金」「普天間」だけではない。こうした生活者としての不安・不満が積み重なると、もっと大きな政治不信につながると思う。

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