「アメリカ最強のITコラムニスト」にインタビュー(前編)
W・モスバーグ「ジャーナリストが業界のコンサルタントになってはいけない」

 「高校生の時に地元紙のコラムニストになった」「コンサルタントの役割を求められたら拒否する」「取材先と一緒に酔っぱらわない」――。いずれも日本の新聞界の基準では、非現実的な話に聞こえるだろう。

 第1に、新聞社は基本的に、新卒一括採用で入社した「プロパー記者」にしか記事を書かせない。フリーランスの記者は限定的にしか使わない。高校生は論外だ。

 第2に、取材先の求めに応じてコンサルタント的に振る舞う新聞記者は珍しくない。例えば、政治家からアドバイスを求められる政治部記者は「優秀な記者」と見なされる。

 第3に、取材先との宴席で酔っぱらう新聞記者はいくらでもいる。「夜回り」取材で夜中に取材先の自宅に上がり込み、ビールをごちそうになることもある。

 ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙でコラム「パーソナルテクノロジー」を立ち上げ、「アメリカ最強のIT(情報技術)コラムニスト」と呼ばれるようになったウォルト・モスバーグ。これまで3回にわたって彼について書いてきた。

 だが、高校生の時に地元紙に寄稿し始めたエピソードをはじめ、紹介しきれなかった話がまだある。日本のジャーナリストからは聞けない話も多いので、今回はインタビュー記事でまとめてみた。

 モスバーグとのインタビューは4月下旬、ニューヨーク・マンハッタンのミッドタウン地区にあるホテル内で行った。ロビーに現れた彼は紺色のシャツを着込み、袖をまくり上げていた。以前に写真で見たスタイルと同じだった。

「やあ! 形式張らなくていい。ウォルトと呼んでくれ」

 気さくに話しかけてくるモスバーグは、「スティーブ・ジョブズも恐れる新聞記者」とはとても思えなかった。スティーブ・ジョブズとは、飛ぶ鳥を落とす勢いのアップル共同創業者兼最高経営責任者(CEO)のことだ。

「Jスクール(コロンビア大学ジャーナリズムスクールのこと)の同窓会に出席するためにニューヨークに来た。今回の同窓会はなんと40周年記念。君もJスクール卒だね?」

「そうです。わたしの場合、卒業から22年たちます」

「20年以上もジャーナリストを続けたのか。頑張ったね。おめでとう!」

 これですぐに打ち解けた雰囲気になった。喫茶室のテーブルに座ったモスバーグは、グラス1杯のダイエットコークを注文し、まずは確認事項。

「ぼくは特殊な部類のジャーナリストに入る。映画批評家みたいな存在だ。スクープを求めて取材競争しているわけじゃない」

「ええ、よく分かっています」

「OK。では何から話そうか?」

 ここからインタビューが始まった。

IT業界に友人はいない

――「パーソナルテクノロジー」は業者ではなく消費者本位の視点に徹することで成功しました。さまざまな誘惑があるなかで中立性を維持してきたわけです。何かテクニックがあるのでしょうか。

モスバーグ 特にない。WSJの親会社には厳しい倫理規定がある。取材対象企業からはどんな形の利益も享受してはならない――こう書いてある。

――取材先からランチもごちそうにならない?

モスバーグ 取材先が「費用はこちらで負担させてほしい」と強く主張する場合に限って、相手持ちでランチを取ることはある。でも、次回は必ずこちらの負担にする。これで借り貸しなしになる。

 そもそも、ランチを食べながらの取材はめったにない。シリコンバレーに出張すれば、ヒューレット・パッカードやインテル、パーム、アップルといった企業を訪問し、オフィス内で取材する。食事に誘われることはあまりないし、こちらから食事に誘うこともあまりない。

 ランチタイムと重なると、オフィス内でサンドイッチなど軽食を出されたり、社員用カフェテリアへ招かれたりすることはある。高級レストランで取材先とランチを共にすることはまずない。

――日本の新聞記者は夜、取材先と一緒に飲みに行くことが多いです。

モスバーグ ぼくも飲みに行くことはある。正確には年に1回。毎年シアトル近郊にあるマイクロソフト本社を取材訪問し、その際に広報部員とディナーを共にする習わしがある。

 ただ、酔っぱらうまでレストランで飲み食いしない。相手はあくまで取材先であって、友人ではないのだから。

 アジアはちょっと様子が違うようだね。アジアへ長期出張し、東京とソウルを訪ねたことがある。その際、夜の会食によく誘われた。記者と取材先が夕食の席で懇談するのが一般的なのかな?

 東京でもソウルでも、夕食の席ではアルコールは1杯だけにした。後はコカ・コーラ。ぼくの仕事は取材先から話を聞き、学ぶこと。取材先と一緒に酔っぱらうことでない。

 誤解してもらいたくないから、1つ付け加えておく。友人ではないからといって取材先を嫌っているわけではない。分かるよね? 

 もっと言えば、IT業界に友人はいない。友人ならば自宅でのディナーに招待したり、招待されたりする。そんな関係にある取材先はIT業界にはいない。

 (アップルの)スティーブ・ジョブズの自宅を訪ねたことはある。ただし、食事に招待されたのではない。彼はがんから回復途上にあり、自宅療養中だった。だから彼の自宅でミーティングするしか方法がなかった。そこではコーラかコーヒーを飲んだだけだった。

――IT業界の一大集結地シリコンバレーへの駐在拒否も、コラムニストとしての独立性維持と関係しているのですね。

モスバーグ その通り。シリコンバレーはいい所だが、「あそこへ行ったら確実に業者の視点に染まり、消費者の視点を維持できなくなる」と思った。

 ぼくが知る限り、シリコンバレーのIT業界にはいい人が多い。個人的に好感を持っている。だからこそ危ないと思った。

 シリコンバレーのIT業界は狭い世界で、独特の価値観を共有している。一般人が興奮しない事に興奮し、一般人が理解できない事を直ちに理解できる。

 シリコンバレーに住んでいれば、スーパーで買い物していてもスターバックスでコーヒーを飲んでいても、業界人に出会う。学校のPTAに参加しても、やはり業界人に出会う。「IT以外の世界が存在する」という事実をいとも簡単に忘れられる。これではまともなコラムを書けない。

 個人的な理由もあった。家族がワシントンを気に入っていた。友人もたくさんいるから、引っ越すのを嫌がっていた。でも、ぼくが強くシリコンバレー行きを主張したら、妻は折れたと思う。

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