誰も知らない孤独な戦い
自主トレはまだしも、2月には侍ジャパンの代表合宿が行われた。野手のイチローはゴマかせても、山田久志投手コーチら首脳陣はケガに気付かなかったのか。
「WBCに間に合うかどうかも不安だったのにケガしてしまい、不安ばかりが大きくなる日々でした」(松坂)「気付かれたくなかった。変に気を遣われたくなかったんです。トレーナーにも話さなかった。幸い、練習の進め方は任されていたので、痛みがキツい時はペースを落とす、という具合に調整できたんです。問題はピッチング。痛みを抑えていても、体がどこかで危険を察知してセーブしてしまう。だから、突っ立った状態で、腕だけで上から投げるようなフォームになるんです。
さすがに気付く人はいて、『フォームを変えたんだ?』って聞いてくる解説者の方がいました。そこはゴマかしましたけどね。妻(倫世夫人)にも言いませんでした。余計な心配をかけたくないから。ただ、後から聞くと、僕の様子が普通じゃないので、ハラハラドキドキしていたらしいです(笑)。消炎剤は寝ている間に切れるため、朝起きると激痛に襲われる。あの頃は毎日、やるか辞退するか、一人で悩んでいました」
本誌はちょうどこの時期、松坂にインタビューしているのだが(3月20日号)、撮影していたカメラマンのジジ氏は異変に気付いていた。2時間近く正座していた松坂を見て、「股関節が悪いのでは」と訝っていたのだ。
「胡坐をかくと痛くて……かといって、・体育すわり・じゃヘンですしね(笑)。でも、もしあの時、ケガについてツッコまれていたとしても、否定したと思います」
そうして迎えた3月のWBC。今思えば、確かに松坂は本調子ではなかったが、キューバ、アメリカら難敵相手に3勝を挙げ、終わってみれば2大会連続のMVP。
「いや、でも大変でした。アタマと腕だけでできることを必死で考えてました。自分の中のあらゆる引き出しを引っ張り出してきて。間を長くとって投球リズムに変化をつけたり、ふだん投げない・抜いたスライダー・を使ってみたり。世界一になれて、まずホッとしました。嬉しかったけど、チームをぶっ壊すことにならなくてよかった、という気持ちのほうが大きかった。投手陣は年下ばかり。僕は結果だけではなく、内容も問われていた」
調子がイマイチでも、結果的に抑えちゃうんだから、怪物はすげぇよな―本誌も含め、世間の松坂評はそんなモノだったのではなかろうか。だが実際は、誰も気付かないような細かいワザを駆使して、死に物狂いで抑えていたのである。ただ、小手先の技術で勝たせてくれるほど、シーズンは甘くなかった。
「WBCが終わった後は、『シーズン通して投げていく中でケガを治す』というプランを描いていました。しかし、いくら投げても状態が上がってこない。1回目のDL(故障者リスト)入りから復帰した5月は自分に嫌気がさしました。休ませてもらったから、肩は元気です。だから、上半身の力だけでスピードは出る。出るんですが、下が使えないから、腕が振れない。投げたいストレートが投げられない。その結果、直球が走ってこその組み立てができなかった。今思えば、WBCの時の精神状態で長丁場を乗り切るのは無理があったんだと思います。でも、春先はレッドソックスの状態が悪かった。だから、何とかしてチームの力になりたいと思ったんです」
だが、そんな事情を知らないメディアは、「三流に成り下がった」「才能だけで投げてきた限界」「燃え尽き症候群」「太り過ぎ」と猛烈な松坂バッシングを展開。ついにはファンまでもが「日本へ帰れ」「日本が高額年俸を負担しろ」と攻撃を始めた。
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