文科省、被災3県の教員定数を上乗せ
[教育]不十分なストレス抱える子供の精神的ケア

宮城県南三陸町立戸倉小学校の入学式が、学校機能を移した登米市の旧善王寺小学校であり、新1年生は担任の点呼に元気よく返事した=5月11日

 文部科学省は東日本大震災の発生後、「被災地に、特別な事情がある際に増員する加配教員を配置する」として、児童・生徒の精神的ケアを目的に被災地の要望に応える形で教員増を認める方針を打ち出した。宮城県は236人、岩手県は155人の加配を要請したが、福島県は「福島第1原発から漏れた放射性物質の拡散区域が広がる可能性がある。

 避難する児童・生徒数も把握できず、必要な教員数も分からない」として要望を断念した。震災発生から3カ月近くがたってもストレスを抱える被災地の子供に十分なケアができない状況が続く。

 加配とは、児童・生徒数によって決められる都道府県の教員定数に、文科省が必要に応じて上乗せして配置する措置。少人数学級、不登校への対応などきめ細かい指導を行うことを目的に「第7次公立義務教育諸学校教職員定数改善計画」に盛り込まれた。給与の3分の2を自治体、3分の1を国庫で負担する。

 被災地への加配は阪神大震災でも行われ、95~09年度には年間最大207人が、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの症状が見られる子供の精神ケアに当たる「教育復興担当教員(復興担)」として兵庫県内に配置された。3年後に同県教育委員会が行った調査では、公立小中学生の4089人が「心の健康についてケアが必要」と判断されるなど、長期間PTSDに悩まされる事例が報告された。加配教員が果たした役割は大きく、新潟県中越沖地震でも柏崎市や刈羽村など計4市村の公立小中学校52校に、65人が配置されている。

 今回も、文科省は岩手、宮城、福島の3県に対して必要な加配教員を申告するよう指示した。岩手県は震災直後に小中学校の講師を新規採用し、これを加配教員として認めるよう求めた。津波の被害が甚大だった宮城県も、大部分の小中学校で授業が再開された4月下旬までに加配を申請した。津波の記憶を思い出したり、余震で泣き出したりするなどPTSDの症状が見られる子供も少なくなく、両県は加配教員を主に精神的ケアに充てる方針だ。

 一方、福島県は「避難する子供、避難先から戻ってくる子供が何人いるか調べようがなく、教員数は決まらない」と回答した。県教委によると、現在福島第1原発の事故以来、原発30キロ圏内の小学校34校、中学校18校は使用できない状態。30キロ圏外にある飯舘村なども、年間の累積線量が20ミリシーベルトを超える恐れがある「計画的避難区域」に指定され、使用できない学校はさらに拡大した。

 避難すると見込まれる子供の数が分からない以上、加配を算出することは困難だ。県教委は「避難生活で疲労している子供の精神的ケアを早期に行いたい」としているが、対策は十分に進んでいない。

 文科省は加配の他、都道府県教委に被災地への教員派遣を要請している。この呼びかけに応じた東京都は5月、68人の教員を来年3月末まで宮城県に派遣。岐阜県や神戸市も同県への派遣を決めた。被災地では自身も家族を失ったり、津波で家が流されたりした教員も少なくなく、こうした教員の負担を軽減するためにも、派遣教員に大きな期待が寄せられる。

 一方で、派遣教員は原籍を派遣元自治体に残したままの出張扱いで、文科省は「年度をまたいでの派遣は『出向』となり、想定していない」との見解を示している。つまり、数カ月ごとに子供が接する先生が交代してしまう事態も想定され、地元からは「かえって子供に精神的な負担をかけてしまう場合もあるのでは」と懸念する声も上がっている。

人件費の全額国負担の要望も

「足りない教員はすべて加配で補いたい」というのが被災地の本音だが、給与の3分の2を負担しなければならない現行制度下では、大量の加配が財政をひっ迫させる一因になるのは目に見えている。福島県教委は「復興にもばく大な費用がかかる。給与が全額国庫負担なら、児童・生徒の流入出にかかわらず今必要な教員数を要求できるのだが」と苦悩をにじませる。

 また、障害がある子供への対応の遅れも指摘されている。例えば、発達障害がある子供は環境の変化に順応できない傾向が強く、震災後の生活では激しい動揺が見られている。被災地の多くの障害者支援施設は震災後、活動停止状態で、避難先の受け入れ態勢も十分ではない。

 発達障害には自閉症、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などがあり、文科省の最新の02年度調査では、小中学校の普通学級に6・3%の発達障害の児童・生徒が在籍。被災地でも同程度の発達障害がある子供がいると推測されている。

 福島県などによると、放射線量が国の基準値を超え、屋外活動が制限されている学校では、発達障害がある子供が「校庭の土や砂場の砂に触れてはいけない」など日常にない指示を受け、行動に落ち着きがなくなったケースが確認されたという。こうした子供たちが震災後、どんな学校生活を過ごしているのか、東北3県では正確な調査が実施できていない。

 被災地から他都道府県に避難し、避難先の学校に通っている児童・生徒への配慮も十分とは言えない。文科省がまとめた4月末時点の東北3県の避難児童・生徒は、小中高と特別支援学校を合わせて計8943人。千葉県船橋市では、福島県南相馬市から同市に避難してきた小5と小1の兄弟が「放射線がうつる」と中傷され、福島市に再避難する事態も起きた。

 5月2日に成立した11年度第1次補正予算には、東日本大震災の学校施設再建費など計3034億円の文科省関連予算が盛り込まれた。内訳は学校施設等の復旧2450億円▽各学校段階における就学支援189億円▽メンタルヘルス対応30億円▽福島原発事故対応24億円▽防災対策事業340億円---。

 子供の精神的ケアのための予算はメンタルヘルスの30億円のみで、事業内容も1300人のスクールカウンセラーの派遣に限られた。文科省は「現段階で復興のため必要な経費は全て計上した」と説明したが、被災地の教育環境の整備を巡っては、多くの問題が山積したままだ。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら