『陽の鳥』 著者:樹林伸
希代のヒットメーカーが挑むメディカル・エンタテインメントを連続公開 VOL.3
『陽の鳥』
著者:樹林伸
講談社
定価1,680(税込)

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◎担当編集者よりの紹介◎

 「生命倫理と家族愛」をテーマに、希代のヒットメーカーが挑むメディカル・エンタテインメント大作!

 関東大学畜産学部の沖田森彦は医師免許を持つ霊長類クローンの研究者。妻を亡くし、高いIQを持つ小学生の息子・有基と二人で暮らしている。1999年、沖田は助手の名嘉城数矢とともに、世界で初めてヒト・クローン胚の樹立に成功していた。科学の歴史に新たに名を刻む、世紀の発見。しかしその発表を間近に控えた矢先、息子の有基が突然の事故に遭い、この世を去ってしまう。

 悲嘆に暮れる沖田が下したある決断---それは、助手の名嘉城と共謀し、生命科学のタブーであるヒト・クローン技術によって、息子を「復活」させることだった・・・!!

「一人くらいいるだろう、知ってる者。こんな知識は基礎の基礎だぞ、細胞学の。いくら一般教養の授業でも、これくらいは予習してこい」 

 文学部の一般教養で、細胞学の知識を予習してくる学生などいるわけがないのは承知の上での質問だった。答えに窮する学生たちを待つ振りをして、森彦は足元のサッカーボールを爪先で軽く蹴りあげた。

 ボールは頭のてっぺんで一度跳ねてから背中を伝って踵に達し、また踵で蹴り上げられて頭を越え、今度は膝の上で大きく弾む。曲芸のようなリフティングに、質問そっちのけで学生が歓声をあげる。

 こういうパフォーマンスのひとつもできなければ、今どきの大学生たちは単位としては重要でない一般教養の講義になど、ろくに集まってもくれない。ましてやこの関東大学は自由な学風を標榜していて、必修以外の講義は出席を取らないのが暗黙のルールなのだ。就職に響く専門科目をもたない一般教養の講師は、当然のように軽く見られ、つまらない、口うるさいなどの理由で嫌われた講師の授業が空席だらけになってしまうことも珍しくなかった。

 講義があまりに不人気だと、少子化で学生獲得に躍起になっている大学側が枠を減らしてほしいなどと言い出すこともある。仮にも大学のセンセイともあろうものが、芸のひとつもできるか、よほど話が面白いか、どちらかでなくては生き残れないというわけだ。うんざりするが、そういうご時世なのだから仕方ない。

「沖田先生」