平泉、小笠原諸島が登録の見通し
[世界遺産]今月下旬にユネスコ委員会が正式決定へ

藤原清衡により造られた金箔張りの中尊寺金色堂=岩手県平泉町で08年5月

 日本政府が文化遺産に推薦している「平泉」(岩手県平泉町)と、自然遺産を目指している小笠原諸島(東京都小笠原村)が、世界遺産として登録される見通しになった。それぞれ「国際記念物遺跡会議」(イコモス)と「国際自然保護連合」(IUCN)がこのほど「登録が適当」と評価したからだ。6月19~29日にパリで開かれる国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会で正式に決定される。

 世界遺産は、顕著で普遍的な価値のある人類共通の宝物を損傷や破壊から守る制度で、1972年にユネスコ総会で採択された世界遺産条約に基づいて登録される。文化遺産、自然遺産、複合遺産の3種類がある。世界での登録総数は昨年8月現在で911件に上り、新規の登録は抑制される傾向にあり、諮問機関の審査が厳しくなっているといわれている。

 登録が決定すれば、日本の世界遺産は、文化遺産が07年の「石見銀山遺跡とその文化的景観」(島根県大田市)以来の12カ所目。自然遺産は05年の知床(北海道)に次いで4カ所目となる=表参照。

 平泉が登録されると、東北地方では初めて、国内で最北の世界文化遺産になる。12世紀の平安時代末期、奥州藤原氏4代が約100年にわたり、都の文化を受容しながらも独自に発展させて栄華を極めた。

 最も繁栄したとされる三代・秀衡の時代には人口が5万~10万人ともいわれ、当時の京都とも肩を並べるほどの文化、経済ともに一大拠点だった。

 初代の清衡が奥州を舞台に争われた前九年・後三年の役の犠牲者の霊を敵味方なく慰めるために建立したとされる中尊寺をはじめとする寺院や庭園群が、浄土思想を具現化した貴重な文化遺産と評価された。

 前回登録を目指した08年は、イコモスは「登録延期」とし惜しくも〝落選〟の憂き目を見た。政府は10年1月、それまでの9資産から、「浄土思想の表現」に強く関わりが明確な6資産に再構成して再推薦した。イコモスはそのうち奥州藤原氏の居館だった「柳之御所遺跡」をはずすなどの一部見直しを求めたというが、浄土思想に絞って分かりやすく伝えたことが奏功したとみられる。

 中尊寺金色堂をはじめとする日本の「黄金文化」は、13世紀に「当方見聞録」を著したマルコ・ポーロが日本を「黄金の国ジパング」と紹介したことにつながり、後に欧州の航海家がアジアに目を向けるきっかけになったとされる。

被災地の復興に希望

 東日本大震災で被災した岩手県では、世界遺産登録の勧告という久しぶりの明るいニュースに沸き、復興への機運を高めると歓迎されている。文化庁によると、震災による構成資産への被害はほとんどなかったという。達増拓也知事は「平泉は戦乱から東北が復興する中心だったという歴史的経緯があり、今回の災害からの復興の象徴になる。国際的に評価され復興を力強く進めていくことの励みになる」と述べた。

 また、震災で落ち込んだ観光客が回復することも期待される。平泉観光協会の小野寺邦夫会長は「震災で大打撃を受け、明るい話題のなかった東北地方にとって、起死回生の光明となった。日本の元気を取り戻すためにも、世界遺産登録によって平泉から光を発していきたい」とコメントした。

太平洋に浮かぶ小笠原諸島の南島(手前)と父島=07年4月

 小笠原諸島は南北約400キロにわたって大小約30の島々が連なっている。候補地は、自衛隊基地がある硫黄島などを除く陸域6360ヘクタールと海域1580ヘクタールの計7940ヘクタール。日本列島から約1000キロ離れており、どの島も一度も大陸と陸続きになったことがない海洋島で、独自の生態系を有する自然の宝庫だ。太古にたどり着いた生物が種の枝分かれをしながら世代をつないだ「進化の実験場」に例えられた。江戸時代後期まで無人島だったこともあり、生物は開発から免れた。

 海洋島の自然遺産では、ガラパゴス諸島(エクアドル)やハワイ島(米国)が知られているが、登録件数増に伴って審査が厳格化している中で、先行組との差別化が求められていた。そこで、主に南米由来の生物が残るガラパゴス諸島に対して、小笠原諸島は日本列島やオセアニア、東南アジアなど多様な起源を持つ生物が混在するという地理的な特性を強調した。「東洋のガラパゴス」としての価値を世界が認めたことになる。

 課題は人や物の移動に伴う外来種対策だ。例えば小笠原の陸産貝類は100種の固有種が確認されているが、80年代以降に生息数が激減し絶滅が進んだ。父島では人間の靴底に付着して運ばれた外来種の肉食性ウズムシの影響とされる。

 観光が主産業の小笠原にとって、世界遺産のブランド効果は大きい。しかし、観光客の急増が環境に悪影響を及ぼすことも危惧される。IUCNは、海域の保護区の拡大の検討や、観光客の増加による環境悪影響を抑える措置も促した。

 石原慎太郎東京都知事は「登録されれば、東京で初めての世界自然遺産となる。東京の魅力を向上させるだけでなく、東日本大震災から復興しつつある日本にも元気を与えることができる」との談話を発表した。森下一男小笠原村長も「平泉町と同時に登録となり、少しでも日本を元気にすることができれば、こんなにうれしいことはない」とのコメントを出した。

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