自然エネルギー20年代早期に20%へ
菅首相、政策転換を〝国際公約〟脱原発へ

エネルギー政策の転換を表明した菅直人首相=首相官邸で5月10日

 悪夢が現実になってしまった東京電力福島第1原子力発電所の事故は、発生から3カ月がたっても収束への確実な見通しは立っていない。

 巨大地震・津波によって「安全神話」が崩壊し、菅直人首相の要請による中部電力浜岡原発の運転停止という異例の対応につながった。

 首相は、原発推進を明記した政府の「エネルギー基本計画」の白紙を明言。フランスでの主要8カ国首脳会議(G8サミット)などの国際舞台で再生可能な自然エネルギー重視への転換を表明した。

 しかし、原発からの脱却は現実的には容易ではなく、当面の「活用」も強調。新たなエネルギー政策の具体化的な議論はこれからだ。

エネルギー基本計画「白紙から見直し」

 「フクシマ」の事故に世界中が衝撃を受け日本政府の対応に注目が集まっている中、菅直人首相は5月26、27日に開かれた仏ドービル・サミットに臨んだ。

 菅首相は前日の25日(日本時間26日)にパリでの経済協力開発機構(OECD)50周年式典で演説。日本の電力全体に占める自然エネルギー(現在約9%)の割合について「2020年代のできるだけ早い時期に20%とするよう大胆な技術革新に取り組む」と、自然エネルギー重視への日本の政策の転換を国際舞台で表明した。あえて数値目標を挙げて、今後、脱原発路線に切り替えていく意向をにじませた。

 その後のG8首脳会議の場でも、同様の考えをアピールし、自然エネルギー分野で世界をリードしていく意欲を見せた。

 首相はすでに記者会見や国会答弁で、政権発足直後の昨年6月に閣議決定した「エネルギー基本計画」について「いったん白紙に戻す」との考えを示していた。この政府の基本計画は、30年までに原発を少なくても14基以上増設し、発電比率を現在の約30%から50%にする、としている。

 民主党政権は自民党政権時代からの原発を基幹エネルギーとする基本政策を踏襲。国際公約にもなっていた二酸化炭素(CO2)排出削減の地球温暖化対策を進めるためにも、低炭素電源としての原子力への期待を高め、新増設と設備利用率の向上を目指していた。

 菅政権が昨年発表した新成長戦略でも、「安全」を売り物に新興国への原発輸出を掲げるなど、これまで以上に原発推進の姿勢を鮮明にしていた。そのもくろみを粉砕してしまったのが、最悪の「レベル7」とされた東電福島第1原発の放射能漏れ事故だった。

太陽光発電の実証試験が行われている沖縄電力のメガソーラー実証研究施設=沖縄県宮古島市で10年12月19日

 自然エネルギーは、太陽光や風力、水力、バイオマス(生物資源)、地熱などがある。自然環境の中で繰り返し起こる現象から取り出せるため、再生可能エネルギーとも呼ばれる。火力発電で使用する石油や石炭などの化石エネルギーと異なりCO2の排出が極めて少なく、原発の放射性廃棄物のような問題がなく、環境負荷がないことから注目されている。

 首相は演説で、政策見直しの基本的な考え方として「原子力と化石エネルギーに加えて、自然エネルギーと省エネルギーを加えて『四つの挑戦』を行う」と述べた。自然エネルギーのシェア拡大のために、「第一歩として、太陽電池の発電コストを20年に現在の3分の1、30年には6分の1まで引き下げることを目指す」とした。「太陽光パネルを1000万戸の家屋に設置する」と具体的な数字も挙げてアピールした。

 現行の基本計画では30年までに自然エネルギーの比率を20%に引き上げる構想のため、今回の首相の考えは、これを10年前倒しして実現するというものだ。

 自然エネルギー利用がなかなか普及しない要因の一つは、高い発電のコストだ。

 電気事業連合会によると、1キロワット時当たりの電源別発電コストは、運転年数を40年とした場合、水力は11・9円、石油火力は10・7円、LNG(液化天然ガス)火力は6・2円、石炭火力は5・7円、原子力は5・3円となっている。原発のコストには使用済み燃料の再処理費用や廃炉費用も含まれているという。

 これに対して、太陽光の場合、現在は1キロワット時当たり43~49円とかなり高い。また、供給の安定性も大きな課題になっている。

 エネルギー政策を司る経済産業省内では早くも「目標の引き上げはかなりの技術革新がないと厳しい」と実現が難しいとの声が漏れだしている。

 一方、「脱原発」が容易でないことは、現実主義者の菅首相はわきまえている。今回の演説でも「四つの挑戦」で第一に挙げたのは「原子力エネルギーの安全性への挑戦」だ。福島第1原発を教訓に「最高度の原子力安全」を実現する、とした。

原子炉の運転を停止した浜岡原発=静岡県御前崎市で5月7日撮影

 同日のサルコジ仏大統領との会談でも「事故の徹底的な検証を踏まえ、よりいっそうの安全性を確保するなかで活用していく」と、自然エネルギー重視政策が決して原子力否定ではないことを強調した。中部電力浜岡原発の運転停止についても、東海地震の危険性が理由で特別なケースであることを説明した。

 サミット議長国のフランスが総発電量の8割近くが原発で、ドイツやイタリアにも電力を輸出している「原発大国」であり、サルコジ大統領は会談で「原子力か、原子力でないかという(二者択一の)議論ではない」とクギを刺した。原発事故による高濃度放射能の汚染水処理対策ではフランスの大手アレバ社の技術協力も得ており、反原発ムードが湧き上がるEU諸国の中で孤立しがちな仏大統領に配慮した面もある。

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