2011.06.10(Fri) 川口 マーン 惠美

死に至る北ドイツの感染症 感染経路はキュウリ? モヤシ? 混迷の犯人探し

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出血を伴った激しい下痢と腹痛を引き起こすこの感染症はEHECと呼ばれる〔PHOTO〕gettyimages

 北ドイツで、腸管出血性大腸菌による感染が広がっている。以前、日本でカイワレが犯人とされたときの菌と親戚だ。溶血性尿毒症症候群という致死率の高い病気を引き起こすらしく、6月8日現在、罹患者は被疑者も含めると2700人あまり。亡くなった人は25人で、子供や老人ではなく、なぜか成人の女性が多い。一番罹患者が多いのがハンブルクで、当地の大学病院内に2ヵ所ある集中治療室が満杯で、かなり深刻な事態になっている。

 最初の患者が発生したのは、5月1日という記録が残っている。しかし初め、当該機関はこの件を軽視したため初動が遅れ、患者数を増やしたまま、無為に時間が過ぎた。強力な感染症が猛威を振るっているということが、ようやくニュースとなって国民の耳に届いたのは23日のことだ。このとき罹患者(被疑者も含む)はすでに140人を越えていたが、国民にとっては、まさに寝耳に水。ドイツの感染症の最高権威、ロバート・コッホ研究所が、感染経路の調査に全力を尽くしているということだった。

 その翌日、2名の死者が出た。その次の日には死者は4名になり、出血を伴った激しい下痢と腹痛を引き起こすこの感染症はEHECと呼ばれ、たちまちトップニュースに格上げされた。EHECが重症になると、腎臓機能が低下し、脳がやられ、やがて死に至る。

 ロバート・コッホ研究所が、北ドイツ産のキュウリ、トマト、そしてレタスなどの葉物を生で食べないようにという警告を出した。畑に散布された堆肥に、菌が混じっていた可能性があるということだった。

 26日、ロバート・コッホ研究所は、ようやく感染経路の一つを特定した。スペイン産のキュウリから、EHECの菌が発見されたのだ。ユッケならわかるが、キュウリに人を殺すほどの猛毒を放つ菌がくっついているというのが、なんだか信じられなかった。もちろんそれ以来、キュウリも、トマトも、レタスも売れない。そして翌27日には、罹患者が270名になり、死者は6名となった。

 名指しされたスペインの農園の主は、怒っていた。「うちで行う検査では、EHECの菌など一度も発見されていない。うちのキュウリが汚染されたとすれば、ハンブルクの卸売市場でのことだろう!」 そう言いながら、農園主は、ヘチマのように太くて長いキュウリをボキッとへし折り、テレビカメラの前でボリボリと平らげた。

 その翌日、死者は10人になった。ドイツ連邦の厚生省、農林食料省をはじめ、ロバート・コッホ研究所など関係者の全員が焦り始めていた。最初のうちこそ、すぐに解明できるだろうと思っていた感染経路が、全力を尽くしても一向にわからない。記者会見を見ていると、関係者の間に疲労と焦燥が蔓延しているのがよくわかった。

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川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信」

シュトゥットガルト在住の筆者が、ドイツ、EUから見た日本、世界をテーマにお送りします。