アップルが絶好調だ。iPadやiPhone4は社会現象になるほどである。マイナーな時代からのアップル使いである筆者にとっては、感慨深い。
「アップル1984」という有名なCMがある。巨大スクリーンに「ビッグ・ブラザー」が登場し、それを女性がハンマーで壊すシーンが印象的だ。
もちろん、政府の情報管理を風刺したジョージ・オーウェルのSF『1984年』をもじったもので、当時のコンピュータ界の巨人IBMを独裁者「ビッグ・ブラザー」に重ねて風刺している(今ではアップルが「ビッグ・ブラザー」だとの批判もあるが)。
さて本題。かつてビッグ・ブラザーと言えば、知識人やマスコミが管理社会の象徴であるとして、国民総背番号制導入に反対するときの決まり文句だった。だが、今や「1984」と聞いて頭に浮かぶのは村上春樹の『1Q84』なのと同様に、国民総背番号制に対しての意識も変わってきた。
年金記録問題の発覚で政府の無能、無策ぶりが広く知れ渡り、その根本的な原因は、年金の「背番号」に当たる基礎年金番号のずさんな管理にあったことが明らかになった。そのため、あれほど国民総背番号制を攻撃してきたインテリやメディアも、擁護に回らざるを得なくなったのだ。
そして今、消費税増税を言い出した菅政権が、「給付付き税額控除」など低所得者の負担軽減策実施の前提として、国民総背番号制の導入に向けて動き始めた。
先進各国ではすでに国民総背番号制が導入されている。アメリカ、カナダでは社会保障番号、スウェーデン、フランス、韓国などでは住民登録番号、オーストラリア、イタリアでは納税者番号があり、当該分野以外にも活用されている。
日本にも基礎年金番号や住民基本台帳番号という総背番号がすでにあるが、税務や年金などの社会保障には利用できない。そこで菅政権は住基番号を活用する方針を固めた。問題は、この国民総背番号制の導入は過去に何度か試みられながら、そのたびに断念を繰り返してきたことだ。
反対論者の理屈は、常に「プライバシーの保護」だ。共通番号にして所得や納税状況などの個人情報が集約されると、その分だけ番号流出に伴う被害が大きくなると主張する。
だがこの一見もっともらしい言い分には、税務当局による個人の所得情報の把握を阻止したいという本音が見え隠れしている。高額所得者の知識人は、自分のカネのこととなるとエゴ丸出しになる。
だが、公平で公正な税制や年金、社会保障の前提となるのが、正確な所得の把握だ。アメリカでも、税務申告の際には社会保障番号の提示が必要で、プライバシー保護法の適用除外となっている。プライバシー保護を盾にして背番号制導入に反対するのは、もはや世界の常識に反している。
ただ、こうした正論で反対論者を押さえ込んでも、官僚の縦割りの壁と、政治の"覚悟"の問題が残る。菅政権では、税務と社会保障に関する個人情報を共通の番号にまとめる検討をしているようだが、そうであるなら、なぜ昨年のマニフェストにあった国税庁と日本年金機構徴収部門の統合が、今回のマニフェストで消えたのか、理解に苦しむ。
両者の統合は、財務省と厚労省の縄張りを政治的判断で取り払わないと絶対に実現不可能だ。政権交代の旗印だった脱官僚依存を捨てて"菅・官接近"の逆コースを歩む菅政権に、国民総背番号制導入をやりきる覚悟が本当にあるか。甚だ怪しいと思わざるを得ない。
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