「クラウドシステム」を米国企業に任せて利用者の権利保護は本当に大丈夫か
海外のデータセンターに個人情報を置くリスク

 "クラウド・コンピューティング"が、テレビのコマーシャルにまで登場し始めた。

 お茶の間で見るCMにどれほどの広告効果があるのかはよくわからないが、インターネット時代の情報処置システムの本流とされるだけに、出遅れの目立つ日本のメーカーが国内市場を死守しようと認知度の向上に乗り出すことは理解できなくはない。

 そして、筆者も、こうした日本勢の活躍に多くを期待せずにはいられない。

 というのは、世界をリードする米国勢のクラウドシステムの利用には、日本企業や日本の個人利用者にとって、計り知れないリスクが潜んでいるからだ。

 クラウド・コンピューティングの「クラウド(雲)」は、世界中に広がりを持ち、全容を把握することが難しいインターネットのことを指す。

 パソコンや身近な大型コンピューターから、インターネットという雲を介し、その向こう側にあるコンピューターの情報処理システムを利用して様々な情報処理を行うことを「クラウド・コンピューティング」という。

 例えば、あなたが自宅のパソコンから、インターネットを介して、地図アプリケーションのグーグル・マップにアクセス。自宅からデパートまでの経路を検索する場合や、あるいは、ヤフーやアマゾンのウェブ・メールを使って電子メールの送受信を行うようなケースも、ある種のクラウド・コンピューティング・システムの利用と言える。

 インターネット時代の情報処理の大本命といわれる、このクラウド・コンピューティングは、コンセプトの提唱から実用化、サービスの提供に至るまで、ほぼ一貫して米国企業の独壇場となっている。

 そうした状況への日本政府の危機感の表れのが、総務省が音頭をとったクラウドシステムの構築(「霞が関クラウド」や「自治体クラウド」)と、民間企業の尻を叩く形でまとめられた何本かの研究会報告だ。

 総務省のホームページでも閲覧できるので、ぜひ参照していただきたい。「クラウド・コンピューティング時代のデータセンター活性化策に関する検討会報告書」「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース・国際競争力強化検討部会(中間取りまとめ)」などがその報告書である。

 ここでは概略の紹介にとどめるが、たとえば、「クラウド・コンピューティング時代のデータセンター活性化策に関する検討会報告書」は、グーグル、マイクロソフト、アマゾン、セールスフォースなどの米企業の動向を踏まえ、日本勢にはない決定的な米国勢の強みは、クラウド・コンピューティングの要であり、実際の情報処理を行う場となるデータセンターにあると分析している。

 米国企業が米国本土にデータセンターを設置・運用するコストに比べて、日本勢が日本国内にデータセンターを設置・運用するコストは圧倒的に高くて勝負にならないというのだ。

 考えてみれば当たり前だが、まず、データセンター用地の取得費用が、広大な国土をもつ米国に比べて、日本では格段に高くつく。また、大量のサーバーを稼働させるために必要な電力料金の彼我の差も数倍に及ぶ。

 さらに言えば、日本では建築基準法や消防法といった関連法規の制約が厳しく、データセンターといえども堅牢な設計を求められ、コストを節約するようなことは許されない。

 日本勢も比較的地価と電力料金の安い北海道にデータセンターを作るような努力をしているところも少なくない。

 しかし、米国企業の中には、競って、地価・電力料金の安い中西部のコロラド州あたりにデータセンターを建設するだけでなく、わざわざ中南米に貨物船用のコンテナを何層にも積み重ねただけの格安のデータセンターを増やしている会社があるともいう。それだけに、日本勢がコスト面でまったく商売にならないのは当然という。

 深刻なのは、供給者のコスト競争力格差の問題だけではない。

 むしろ、深刻な問題は利用者(法人・個人の双方を含む)にとって、自身の権利保護である。

米国法で犯罪捜査の対象になる危険

 仮に利用者の固有の情報が米国内や中南米に置かれた、米国企業のデータセンターで蓄積・処理されるとすると、それらの情報は米国法や中南米諸国の法の定めに従った取り扱いを受けることになるからだ。

 端的に言えば、9・11同時多発テロ以降、テロ対策であれば何でも有り状態の米国のルールが適用されてしまう。こうなると、言論・表現の自由を保障した日本国憲法はもちろん、通信の秘密を規定した電気通信事業法や、個人情報保護法など、日本の法規は斟酌されなくなってしまうのである。

 極端なことをいえば、日本人が日本に居住しているにもかかわらず、米国法に基づいて犯罪捜査の対象になり個人情報を押収されたり、その情報をもとに摘発されたりしかねない。

 やや細かいが、他社のクラウド・コンピューティングのシステムを利用するために委託先を切り替えるような場合に、個人情報の返還に応じてもらえる保障がない。そもそも個人情報が蓄積・保全されている保障さえない。

 筆者は、基本的には自由貿易論者だ。何も日本企業や日本人が、米国企業が提供するクラウド・コンピューティングを利用すべきではない、などと言うつもりは全くない。

 しかし、現行、日米間には、米国企業のシステムを日本企業や日本人が利用する場合に、日本の法規に基づいて保護するといった取り決めや考え方は存在しない。

 また、米国企業が、日本企業と日本人を保護するために、敢えて、彼らにすれば余分なコストをかけて日本国内にデータセンターを新設するとも考えにくい。

 米国企業がクラウド・コンピューティング分野で圧勝し、日本勢が劣勢に立たされる中で、ユーザーとしての日本企業や日本人が大変なリスクを抱え込むことが全く周知されていないことは、憂慮せざるを得ない事態なのだ。

 コスト面の長所に着目して、米国企業のクラウドシステムを利用することは構わない。が、その場合、日本企業と日本人は、基本情報や個人情報の管理を米国企業任せにしないこと、自ら管理することの大切さを肝に銘じるべきだろう。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら