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東電はパンツ一丁になっても賠償金を支払え
資産6000億円売却案は大甘だ。子会社169社、 関連会社89社を擁し、送電設備も含めると資産14兆円
とも言われる 大帝国に、血税投入は必要なし
川崎市にある『FISH・ON!王禅寺』。ルアー専用池やフライ専用池があり、ナイター施設も完備している〔PHOTO〕天翔

 関東地方の電気事業を一手に担ってきた、東京電力の帝国が瓦解しつつある。

 5月20日、東電は東日本大震災の被害を受け、'11年3月期連結決算で純損益が約1兆2000億円超の大幅赤字となったことを発表した。1基1000億円以上とされる福島第一原発1~4号機の廃炉コストや、事故収束へ向けた対策費用を特別損失として計上したためだ。

 瀕死の東電が今最も恐れているのは、「兆単位に上ることは必至」(経済誌記者)とされる賠償金だ。第一原発の事故が一向に収束の気配を見せない中、最終的な賠償額は4兆~5兆円、場合によっては10兆円規模になると見られている。

 それを受けて東電は原発被害者への賠償のため、関連会社や社員向けの保養所、保有株式の売却などで6000億円を捻出することを発表、リストラ計画を策定中だ。まずは会長、社長、副社長が100%、常務取締役が60%、執行役員が40%、管理職が25%、一般職が20%、給与を減額することを決定した。

「'11年3月期の連結決算によれば、東電の総資産は約14兆8000億円です。総資産には関連会社の株式や不動産なども含まれますが、固定資産の中で大きいのは送電設備(2兆923億円)、変電設備(8288億円)、配電設備(2兆1540億円)で、合計約5兆円になります。まだ確定的な賠償額は計算できませんが、これらの資産を売り払っても東電単独で賠償額を賄うのは不可能でしょう」(帝国データバンク情報部情報取材課課長・仲野実氏)

 それでも電気事業に君臨してきた〝東電帝国〟は、169社の子会社と89社の関連会社を抱え、約14兆8000億円の総資産を持つ。「何があっても潰れない超優良企業」という強みを活かし、本業とは関係のない業種に業務を拡大し、それにまつわる箱物を多数建設してきたのだから、6000億円の資産売却では生ぬるいことは言を俟たない。血税投入というツケを国民に回させないために、改めて東電帝国の資産を詳らかにしよう。

(左)練馬区にある介護付き有料老人ホーム『もみの樹』。ガーデニングが楽しめる広い屋上庭園が人気だ〔PHOTO〕吉岡清貴  (右上)神奈川県中郡大磯町にある東京電力の厚生施設『大磯クラブ』。森林に囲まれた広大な敷地内にはプールがある。旧徳川邸の敷地〔PHOTO〕小松寛之  (右下)神奈川県鎌倉市にある保養所『鎌倉荘』。西洋風のエントランスが特徴的で、海水浴場が近い好立地。夏は社員たちで賑わう〔PHOTO〕小松寛之

 東電の不動産部門を担う『東電不動産』は、オフィスビル管理やオール電化仕様の賃貸マンションに加え、『トレストイン日本橋』『トレストイン田町』という2つのビジネスホテルを経営、山梨県都留市と神奈川県川崎市では釣り堀も運営している。都留市の『FISH・ON!鹿留』は敷地面積約7万平方キロメートルを誇る釣りのレジャー施設だ。

「裸になれば10兆円はある」

(左)東電が持つ『熱海荘』(静岡県熱海市)は高い山中に建っており、熱海の街を一望できる〔PHOTO〕橋本昇(中)静岡県熱海市にある『リゾートLきのみや』。東電の子会社が持つ保養所の一つで山腹の傾斜地に建つ〔PHOTO〕橋本昇 (右)浜松町駅から至近距離にある東電労組が入るビル。美白革命で有名になった旧SONOKOビルだ〔PHOTO〕吉岡清貴

『当間高原リゾート』は、新潟県十日町市で高原リゾート施設『ベルナティオ』を運営している。開発費は425億円で東京ディズニーランドの約10倍もの敷地を持つが、東電関係者によれば、これは「自然保護の一環」だという。自然保護といえば、福島、群馬、栃木、新潟の4県にまたがる尾瀬国立公園の土地も、その約4割を東電が所有していることはあまり知られていない。

 '51年の東電設立時に、利根発電から引き継ぎ、「毎年2億円の事業費を拠出して自然保護活動に充てている」(前出・東電関係者)が、その原資は付近の水力発電所9基の電気料金から賄っており、〝自腹〟を切っているわけではなく〝見せかけの環境保護〟にも感じられる。

 東電が95%を出資する『東電ライフサポート』は、東京都の練馬区や杉並区、神奈川県の横浜市で介護付き老人ホーム『もみの樹』を経営。

 同じくグループ企業の『リビタ』は住宅のリノベーションや不動産所有者へのコンサルティング業で利益を得ているが、いずれも電気事業とはかけ離れたものだ。

 なぜかくも業種を拡大しているのか東電に問うと、「電気事業の付加価値を高めるために、グループの強みを発揮して、電気事業以外も展開していました」(広報部)と答えた。

 しかし、経済ジャーナリストの山本伸氏は、「天下りの受け皿を作ってきたに過ぎない」と指摘する。

「東電OBや経産省、文部科学省の官僚、大株主である東京都や、親密企業の天下り先として、雨後の竹の子のように増やしてきたのです」

(左)地下鉄「茅場町」直近の『トレストイン日本橋』。節電のためエントランスや廊下は暗くしている(中)JR山手線「田町駅」から徒歩4分の距離にある、『トレストイン田町』。ビジネスマンの利用が多い(右)新宿区西早稲田にある東京電力社員の社宅。世田谷区や渋谷区、文京区、板橋区、品川区、中央区などにも社員のための寮がある〔PHOTO〕天翔

 不必要なグループ企業の整理・売却が急務だが、それに並行して東電本体が持っている不動産などの資産売却も徹底しなければ、国民は到底納得しない。東電は神奈川県の『鎌倉荘』や『大磯クラブ』などをはじめ、27の宿泊施設や厚生施設を保有しているが、今後どの施設を売却するのかについては「検討中」(広報部)だという。いずれも一企業の保養所としては豪華で目を引くものばかりだ。

「東電の有価証券報告書によると、東電が保有している上場企業の有価証券は約3000億円で、非上場の有価証券は700億円です。その金額は有価証券を取得した時の金額(簿価)なので、日経平均株価が3000円に満たなかった昭和40年代頃までに買ったものがあれば、かなりの含み益があるはず。現在の日経平均株価は3倍以上になっていますから、有価証券を売れば1兆円くらいになる可能性もあります」(証券アナリスト・植木靖男氏)

都留市の『FISH・ON! 鹿留』は節電をして営業中。釣り具はレンタルできるため手ぶらでも楽しめる[PHOTO]橋本昇 

 東電が保有している土地も広大だ。

「東電は約2億7000万平方メートルの土地を持っていますが、このうち2億4000万平方メートルは発電施設などに使用されているため、売却の可能性があるのは3000万平方メートルで、約1000万坪です。都心であれば坪単価は200万円くらいになりますが、そうでなければ数万円のところもあるでしょう。

 でも、平均坪単価を10万円で計算しても、ざっと約10兆円ほどにはなる。有価証券と不動産を売却し、不必要な関連会社などをすべて売却することができれば、もしかすると賠償金を支払うことは可能かもしれません」(前出・植木氏)

 政府は「賠償責任は一義的には東電にある」とし、東電に長い将来にわたって賠償金を支払わせ続けるスキームを作成した。電力会社10社で作る新機構に政府が交付国債を投入し、東電は自己資金と新機構からの支援や金融機関からの融資、政府からの原子力損害賠償法に基づく保険金で賠償金を捻出し、機構に月賦で負担金を返却していく。東電を潰さずに〝生殺し状態〟にして重い責めを科した格好だが、一方で「なぜ東電を助けるのか」と憤る国民感情も噴出している。

「法的整理による更生手続きには多くの手間と時間がかかり、理論上、被災者に損害賠償が履行されなくなる恐れがあります。直ちに被災者に賠償金を届けるためには、政府のスキーム以外になかなか良策は見つからない。それでも電気料金の値上げなどの懸念は残ります」(一橋大学大学院・商学研究科の山内弘隆教授)

 独占事業で得たカネで買った豪華な服を脱ぎ去り、パンツ一丁になってでも賠償金を支払う---。東電が罪を贖うには、すべての財を吐き出す覚悟が必要だ。

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