「国が破綻して年金と給料が下がる」という消費税増税キャンペーンの大ウソ

なぜ国の資産700兆円を売らないのか

 本コラムでギリシャ問題に悪のりした増税キャンペーンが行われていると書いたが(5月10日付け「菅財務相も騙される「ギリシャ問題」に悪のりした増税キャンペーン」)、まさに参院選挙で、菅直人総理の街頭演説でそれが実行されている。

 私はテレビをあまりみないが、ワールドカップをみようとしていたら、菅直人首相の街頭演説を聞いてしまった。

 曰く、消費税は上げたくないが、上げざるを得ないという。財政破綻危機のあるギリシャの例を持ち出し、「誰が一番被害を受けるか。ギリシャで最初にやられたのは、年金と給料のカットなんです」と言っていた。

 あたかも、国民の年金と給料を守るためには、消費税を増税しなければいけないといっているようだ。

 事実はどうか。

 まず、ギリシャの消費税率は、今年3月に19%から21%、5月に23%へと引き上げられた。それとともに、年金の給付はカットされ、「公務員」の給与もカットされる。ギリシャでは、消費税も増税されたが、年金と公務員給与がカットされたのである。

 年金と公務員給与がカットされたのは、あまりに酷いからだ。まず、ギリシャの年金は給付水準が高すぎる。

 現役の時の所得の何割をもらうかを所得代替率というが、OECDの調査では、ギリシャは96%、日本は36%、G7(除く日本)は48%だ。年金財政は出生率にも左右されるが、ギリシャの出生率は1.4程度で日本と同じ程度である。

 それでいて給付水準は日本の2倍以上もあるので、年金財政は破綻状態だ。

 またギリシャは公務員天国だ。OECDの調査では、4人に1人が公務員でその給与は民間の1.5倍であるという。これでは国家財政が持たない。

 一方、ギリシャは日本と異なり、名目成長率は高い。ここ10年間の平均名目成長率は7.3%だ。ちなみに、日本は0%、G7(除く日本)は4.3%だ。

 このため、ギリシャの年金問題などはあまり顕在化せずに、財政はそれほど悪くなかった。日本の財政問題はひとえに名目成長率の低さに由来する税収不足である。

 このように、ギリシャと日本の財政問題はまったく異なる。

 この決定的な違いを無視して、ことさら菅総理がギリシャ問題に悪のりして消費税増税をいうのは不可解である。

 ギリシャは年金がデタラメで公務員の給料が高いから財政が危機に陥ったのだ。年金の見直し、公務員の給与引き下げは当然の対策である。国が破綻したから年金引き下げ、公務員の給与が下がったのではない。原因と結果がまったく逆なのだ。

 さらに付け加えると、下がったのは公務員の給料であって、民間企業のそれではない。

 そもそも名目成長率の低さは、日本だけが先進国の中で15年以上デフレだからだ。日本において、このデフレのままに消費税増税なんて、とても正気の沙汰でない。レスターサロー名誉教授(マサチューセッツ工科大学)が、デフレ下の消費税議論をクレイジーというのはよくわかる。

 私も、外国人に日本経済を説明する機会があるが、消費税議論をみんなクレイジーといっている。

 それでも、菅総理や財政当局の増税キャンペーンは続くだろう。最近は欧州では財政再建論議に乗り出していると、新聞も書き立てている。

 欧州はユーロ圏と非ユーロ圏がある。独自の金融政策を発揮できないユーロ圏は財政再建しか手がない。もちろん欧州中央銀行も金融緩和しているが、個々の国では財政を頑張るしかないのは当然のことだ。

 これは通貨統合で各国が金融政策手段を失ったため、ある程度仕方ない(これが通貨統合の欠点である)。

 非ユーロ圏については、間接税の引き上げを打ち出した英国を引き合いに、財政再建に舵を切ったとキャンペーンを張る。

 ここで、忘れはいけないのは、英国は金融危機で生じたGDPギャップを埋めるほどの金融緩和を行っている事実だ(1月8日付け「なぜ日本経済だけが一人負けなのか」)。このため、英国ではデフレにならないで、そろそろリーマンショック対応の出口戦略という段階になっている。

 ところが、日本では金融緩和をさぼったために、入口に入っていない。ここで、消費税を増税すれば、菅総理のお得意の「第三の道」による使い道がいくら有効であったとしても、日本経済にはマイナス効果は必至だ。

 そもそも、財政再建と経済成長を両立させる具体的なロジックである「増税も使い道を間違わなければ経済成長する」という話を菅総理はサミットで話したのだろうか。

 この議論には、1929年からの大恐慌のような大量の失業者がない状態では、政府が国民より賢く、政府が増税で国民からお金を巻き上げ、政府が国民に代わってお金を有効に使えるという前提がある。

増税の前に国の資産700兆円を売却せよ

 最近、この種の特殊な前提にもとづく政策が多くなってきた。

 25日、財務省は、国有地などの国有財産を「有効活用」するために官民合同チームを結成する方針を固めたと報道された。このポイントは、それまでの国有地を原則売却する方針を転換し、売却せずに「有効活用」するとしたことである。

 国有地を売却する方針というのは、政府が民間より賢くないので民間に所有させたほうが国全体としていいという判断であった。

 しかし、国が国有地を有効活用できるというのは、政府が国民より賢いが前提になっている。民間の知恵を借りるなどと口当たりのいいことをいうが、政府が所有することにより種々の利権を確保したいことがミエミエだ。

 また、これは、借金返済の鉄則の一つである、資産の売却を否定することにもなる。

 国の借金が1000兆円もあるというのは、消費税増税キャンペーンの重要アイテムだ。しかし、資産も700兆円もある。増税の前に、それをまず売却すべきだ。

 特に、700兆円のうち500兆円は金融資産である。年金見合い資産150兆円を除けば売却できる。しかも、それらは官僚の天下り法人への資金提供であるので、売却によって天下り法人も原則廃止できる。

 資産700兆円のうち、残りの200兆円は固定資産なので、売りにくい。それでも、一部の資産は原則売却になっていた。それを今回の措置で売却しないこととなった。

 これでわかるだろう、国の資産700兆円は売れないのではなく、売りたくないのだ。そして、それを既成事実化して、まずます消費税増税キャンペーンに拍車がかかるのだ。

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