参院選挙後の菅政権を待ちかまえる「増税国会」の難局
単独過半数を握らなけらば早晩行き詰まる

 参院選がスタートした。

 参院選後の政局はもちろん選挙結果に大きく左右される。したがって情勢は流動的だが、それでも見えてきた部分もある。もっとも重要なポイントは「民主党が単独過半数を握らない限り、いずれ菅直人政権は行き詰まる」という点だ。

 菅政権は参院選後に「連立組み替え」や「部分連合」に踏み切るという観測が強まっている。だが、現実には連立組み替えも部分連合も難しい。

 たとえ一時的に実現できたとしても、政権は安定せず、来年1月から始まる通常国会前後には崩壊の危機に直面する可能性が高い。

 以下、民主党が単独過半数を握れない前提で参院選後のシナリオを検討してみる。

 まず、国民新党は先の国会で廃案になった郵政改革法案を秋の臨時国会で再提出・成立させることが最優先だ。

 だから、当面は民主党の連立を継続する。郵政改革法案が国会にぶら下がっている限りは、民主党との関係もできるだけ波風を立てないように行動するだろう。

 ところが、法案成立後はどうなるか分からない。国民新党は消費税引き上げに強く反対している。

 菅首相は消費税引き上げを自分が言い出したというだけでなく、増税路線を敷かざるを得ない立場に自らを追いやっている。それは次のような事情からだ。

 菅政権は財政運営戦略と中期財政フレームを決めた閣議決定で、2011年度予算編成について国債発行の上限額を10年度並みの約44兆円、国債費を除く一般会計歳出の上限も約71兆円と縛った。

 ところが、閣議に参考として提出された内閣府試算によると、11年度予算は国債発行を上限の44兆円、国債費を除く一般会計歳出も同じく71兆円とすれば、税収を前年度比2.2兆円増の39.6兆円と見込んでも、歳入と歳出の差額(財政赤字)は約5兆円に上る。社会保障費の自然増約1兆円を加えると、赤字は計6兆円である。

 にもかかわらず、菅政権は子ども手当の上積みや高速道路無料化、農家への戸別所得補償の段階的実施などマニフェスト政策の積み残し分を実施すると言っているので、他の予算項目を大幅に削らない限り、赤字はもっと拡大する。

 一方で、仙谷由人官房長官はすでに「無駄削減で生み出せる財源はせいぜい2兆円」とテレビ番組で語っている。この2兆円を全額マニフェストの積み残し分に充てたとしても、なお6兆円足らない状況に変わりはない。

 すると、菅政権に残された道は基本的に3つしかない。

 すなわち国債発行の上限44兆円を突破する。マニフェスト政策を含めて歳出を大幅に削る。最後が増税である。おそらく3つの組み合わせが現実的出口になるだろう。これとは別に、埋蔵金の発掘も必死で続く。

 国債費のうち元金返済分を計上せずに(定率繰入の停止)国債発行額を抑える手もあるが、荒井聡国家戦略相は「現時点では、まったく検討していない」と語っている。

 11年度をしのげたとしても、12年度はさらに苦しい。日銀との強力な連携によってデフレを克服し経済成長を確実にしない限り、菅政権は増税路線から逃れられない。肝心の経済政策が中途半端だから、結局は増税に追い込まれてしまう。

 本題はここからだ。

 菅政権が頼らざるを得ない財務省は来年1月からの通常国会に的を絞って、近い将来の消費税引き上げを盛り込んだ法案を提出しようと動くに違いない。つまり、11年度予算案は増税を確実にする財政健全化法案とセットになる可能性が高い。

 財務省から見れば、将来の増税を一歩でも二歩でも確実にすることが最大の戦略目標である。はっきり言えば、それ以外に菅政権を支える理由はない。増税路線が進まないなら、さっさと政権を見限るだろう。

 そのときが国民新党の正念場だ。増税法案を国民新党は受け入れるだろうか。私は受け入れないとみる。菅首相が増税法案にこだわれば、秋の臨時国会で郵政改革法案の成立を見届けた国民新党は、増税法案の閣議決定前にも連立を離脱する可能性が高くなる。

 ほかの党はどうか。

部分連合では政権が安定しない

 新たな連立候補とみられていた公明党は、山口那津男代表が先の党首討論会で「閣外協力を含めて民主党とは連立しない」と明言した。これで公明党カードは消えた。

 みんなの党は公務員制度改革をはじめ政策路線が民主党ともともと違ううえ、菅首相が消費税引き上げを言い出して、連立の可能性は完全に消えた。

 新たに浮上したのは、平沼赳夫代表のたちあがれ日本と舛添要一代表の新党改革である。

 たちあがれ日本は消費税引き上げで民主党と一致できる半面、外交安保防衛問題では保守路線を掲げて相容れない。

 新党改革は増税を否定しないが、郵政改革で民主党や国民新党と相容れない。さらに反小沢を強く打ち出しており、菅首相が小沢一郎前幹事長との関係を払拭できるかどうかが鍵になる。

 自民党は増税路線で政策の方向感は一致しているが、野党の立場では与党にすり寄れないという政局事情を優先して、民主党と対立している。かつて一部で模索された大連立も「与党なればこそ」の選択肢だった。野党に転落した立場では、もはや自殺行為である。

 すべての政策分野で民主党と一致できる政党はなく、だからこそ部分連合がとりざたされている。だが部分連合を探ったとしても、たちあがれ日本や新党改革が大きく議席を伸ばす可能性は薄く、結局のところ、政権が安定しないのである。

 加えて、小沢ファクターも依然として残っている。

 小沢自身は検察審査会の議決問題を抱えているが、消費税引き上げ問題では菅首相と対立し、むしろ国民新党の亀井静香代表の立場に近い。小沢にとっては、9月の民主党代表選、そして暮れの増税法案決定前後と勝負の局面が続く。

 菅首相にとって本当の正念場は参院選後である。

 (文中敬称略)

最新刊
官邸敗北(講談社刊、税込み1680円)
発売中

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら