使い道がなくなると電話ひとつ寄越さない菅首相の「他人活用術」
この人は評論家でいるのが国益にかなっている
茶番劇だった今回の内閣不信任案否決   〔PHOTO〕gettyimages

 全くの茶番劇が、今回の内閣不信任案否決である。当日の朝まで、メディアは「可決」という見通しで動いていた。あるテレビ局の幹部など、朝7時前に、その文脈で私に取材電話をかけてきたくらいである。ところが、鳩山前首相の「介入」で、一転して大差で否決となった。その顛末、そしてその後の展開は、日本の政治の行方をますます不透明なものにしている。

 鳩山由起夫氏の思考と行動について、メディアを含めて、皆、1年前のことを忘れている。続投かと思われた鳩山首相が突然辞意を表明し、自分の道連れに小沢幹事長もその職から解いてしまった。これが鳩山流である。事前に小沢氏や関係者に根回したり、説得する努力をしたりせずに、公開の席で唐突に決定する。

 今回も全く同じである。当日、朝の菅・鳩山会談でも、鳩山氏が菅氏に明確に辞任を迫ったのかどうかも分からない。とにかく、民主党の代議士会で結論を断言する。だから、総理の退任時期をめぐって大きな混乱が生じるのである。

 しかし、その稚拙な政治手法にもかかわらず、無垢なお坊ちゃん政治家に天が味方したのか、前回は小沢幹事長の辞任、今回は菅首相の早期退陣という実は取ることができたようである。鳩山由起夫氏は学者でいたほうがよかったように思う。

政治家にはこの類の人間が多すぎる

 そして、菅首相は、政治家であるよりも、評論家か、一市民運動家であったほうが、日本の国益に叶うように思われる。この人の思考の原点は、自分の利益のために他人をどう使うかということである。何人もの専門家を内閣参与に任命し、都合の悪いことはすべて彼らの責任にする、これこそが菅流の他人活用術である。与謝野馨氏や舛添要一に声をかけたのも、全く同じ発想からである。使い道がなくなると、電話一つ寄こさないし、利用価値が高まると頻繁に電話をかけてくる。

 他人を利用する対象としてしか見ない人間ほど、いったん権力を握ると、それに固執する。自分の能力とは関係なしに転がり込んだ権力の座だからこそ、それを死守しようとして、品性下劣な本質をさらけ出すのである。

 今回の菅・鳩山会談をセットし、「合意事項」の文言を考えた北澤氏や平野氏は、古いタイプの政治家である。だから、玉虫色の言葉を探す。それが、曖昧模糊とした例の密約である。

 昔は、政治の世界では、この類の玉虫色の決着は日常茶飯事であった。しかし、メディアが発達した今日、もはやこのような政治手法は「百害あって一利なし」である。いったんメディアが報道すると、それがあたかも事実であるかのように思われてしまう。だから、菅首相がいくら抗弁しようとも、密室での曖昧な議論など、何の意味も持たない。

 北澤氏や平野氏の決定的失敗は、党内を丸く収めようとするあまりに、かえって党内亀裂を生むような曖昧文言を作文し、収拾がつかなくさせたことである。一昔前なら、政界もメディアも、そのような玉虫色の決着を「大人の智恵」として認めたであろう。しかし、今は時代が違う。国民監視の下で行われる党の代議士会での発言が極めて重いことを、古い型の政治家たちは理解できなかったのであろうか。

 いずれにしても、政治の営みは政治家抜きには考えられない。「この類の人間にだけはなりたくない」と人々が思うような政治家が多すぎる。自民党離党、そして新党改革結成という激動の1年余に私が関わりを持った政治家の大多数が、この種の政治家である。これでは、日本が沈没するのも不思議ではない。

 TBSの直近の世論調査によれば、内閣支持率(括弧内は前回)は28.1%(29.5%)、不支持率は69.4%(68.6%)であり、今回の退陣表明はほとんど効果がなかったようである。ただ、政党支持率では、民主党が19.5%(18.4%)、自民党が18.8%(19.2%)と自民党を再逆転した。菅首相の退陣時期については、今月中31%、秋頃25%、年明頃14%、それ以降19%となっており、早期退陣論が優勢である。

 その菅首相の早期退陣を前提に、すでに民主党内ではポスト菅レースが始まったし、大連立論も民自両党で合唱されはじめた。しかし、公債特例法案、第二次補正案などをめぐって、与野党間の対立は容易に解消しそうにない。日本の政治は、一つのトンネルを抜けても、また新たなトンネルに入りそうである。

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