日本振興銀「検査妨害の裏に元執行役の私的メール」
警視庁が家宅捜索&木村剛前会長
を任意で事情聴取する中・・・
日本振興銀行の木村剛前会長。検査妨害事件で任意の事情聴取を受けたが、事件への関与は否認している〔PHOTO〕片野茂樹

「どうして渡したんですか! あの中には絶対見られてはいけないメールがあったのに・・・」

 男は天を仰いでこう喚いたという。'07年に行われた金融庁による日本振興銀行への立ち入り検査時のことだ。検査官が銀行内に設置されたメールサーバーを持ち帰ったと聞き、動転したのだ。そして2年後、再び金融庁は同行に検査に入る。しかし、今回押収したサーバーは前回とは違った。男にとって不都合なメールが削除された後だったのである---。

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 中小企業向けの無担保融資を専門とする銀行として、'04年、鳴り物入りで開業した日本振興銀行。現在、振興銀は創業以来のピンチに陥っている。同行には、'09年5月から始まった金融庁の立ち入り検査前に、違法性が疑われる取引に関わる業務メール数百通をサーバーから削除し、検査を妨害した疑いがかけられているのである。

 6月11日、金融庁は振興銀と検査妨害に関与したとされる役職員らを、銀行法違反(検査忌避)の疑いで警視庁に刑事告発。告発を受けた警視庁捜査二課は現在、木村剛前会長(48・5月10日付で辞任)を含む役職員らを任意で事情聴取するなど、捜査を進めている。全国紙社会部記者が解説する。

「振興銀が削除したメールの大半が、商工ローン大手『SFCG』(旧商工ファンド・破産手続き中)との債権取引に関わるものです。

 振興銀は、'00年末頃、SFCGから約100億円の債権を買い取った1ヵ月後にSFCGに買い戻させるという取引で、約3億円の手数料を得ました。これは売買に見せかけた実質的な融資で、出資法で定められた上限金利を大きく超えていた。役員らは、この取引の違法性を認識していたからこそ、メールを消したと見られています」

6月11日、東京・千代田区にある振興銀本店の家宅捜索に入る警視庁捜査二課の捜査官〔PHOTO〕香川貴宏(以下同)

 金融庁の検査に大慌てしていた冒頭の男の名はS。今年4月まで同行の取締役専務執行役を務めていた人物で、今回のメール削除を主導したと言われている。

「S氏には、前回不意打ちでメールサーバーを持っていかれた苦い経験があった。だから、今回は事前に後ろめたいメールを消しておいたのでしょう。

 S氏は警視庁による任意の事情聴取で容疑を否認していますが、関与した社員の一人はS氏からの指示だったことを認めています」
(前出・記者)

 今回の検査妨害のキーマンと言われるS氏とは一体どういう人物なのか。振興銀関係者は次のように語る。

「振興銀の最高実力者だった木村氏(当時・会長)の腹心で、行内で社長を通り越し、No.2と呼ばれていた人物です。 '04年末頃、りそな銀行から転職後、木村氏に気に入られ、2年足らずで執行役に抜擢。順調に出世コースに乗り、30代後半の若さで、ヒラ行員から取締役まで上り詰めました。

 執行役に就任してからは、『特命係長』ならぬ『特命役員』として、他の役員も知らない木村氏の直々の裏仕事を担っていました。SFCG側との折衝窓口を担当していたのもS氏です」

ローマ字で書いた「メール」

 S氏が執行役に昇格してから初めての"大仕事"が、'07年に持ち上がった韓国系銀行への身売り話だったという。

 前出の振興銀関係者が続ける。

「一般的にガバナンスが利いている会社ならば、このような重要案件は役員会にかけてから進めるのが筋。しかし、木村氏は役員会に諮らないまま、S氏と二人三脚でこの案件を進めた。そして、ある日突然、S氏は韓国系銀行の行員を引き連れ、行内視察までさせたのです」

 何も聞いていなかった当時の役員らはこの動きに大いに驚いたという。

「いきなり『アニョハセヨ!』と見知らぬ韓国人が行内に入ってくるのですから(笑)。その先頭に立っていたのがS氏でした。そしてS氏は『彼らにシステムの中身を見せて下さい』とシステム担当役員に命じたのです。

 担当役員は『聞いていない』と拒みましたが、S氏は自信満々に、『No.2の私の指示に従って下さい』と言い放ったのです。結局、身売り話は頓挫しましたが、この事件後、木村氏のやり方に呆れた4人の役員が銀行を去りました」(前出・関係者)

 その後、S氏はますます木村氏の威を借るようになったという。そしてS氏が木村氏から受けた最後の特命。それがSFCG案件だった。しかし、金融庁の検査が終わった今年4月、S氏は今回の検査妨害事件の責任を問われ執行役を辞任したのである。

 実は今回、S氏が削除したとされる業務メールを巡って、行内ではある話題でもちきりなのだという。検査前に削除されたメールの中には、SFCGとの取引を巡るメールばかりではなく、S氏の「プライベートメール」もあったのではないかというのだ。前出とは別の振興銀関係者が明かす。

「今回の検査妨害事件でまっ先に話題になったのは、Sさんが3年前の金融庁検査の際、メールサーバーを押収されたことにひどく動揺していたことです。というのも、Sさんが業務用メールをプライベートなことに利用していたことは、行内で有名な話だったからです。ある行員は、『Sさんがデートの約束をわざわざローマ字で書いているのを見た』と言っていました。

家宅捜索は木村氏が代表を務める金融コンサルタント会社など数十ヵ所に及んだ

 ひょっとしたら、Sさんが怖かったのは業務メールの全容が金融庁に渡ることではなく、行内で禁止されている私的な利用実態が明らかになることだったんじゃないか。まさか、Sさんの私的なメールが検査妨害事件のきっかけになったんじゃないだろうな---などと冗談を言う行員までいます」

 執行役という立場にある人物が、銀行内で私的メールとは驚きだが、それがまた行内で冗談として語られているというのも緊張感のない話である。

 メール削除は誰の指示でどのように行われたのか。木村前会長の関与はあったのか。捜査の行方を見守りたい。

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